第8話
「あ、もしかして忘れ物? 実は私もなの。ほら、今日、剛村くんのクラスで理科室での実験があったでしょ。私も授業のお手伝いとして参加したんだけど、ペンを置き忘れちゃったの。えっと、確かここかな?」
そう言いながら、実験用のテーブルを見回る逢蕾花。
「あ、あった、あった。今日が実習最後の日なのに、こんなポカしちゃうなんて恥ずかしいわ」
彼女はとあるテーブルの前で一度しゃがみ、立ち上がってから烈達にペンを見せた。相変わらずほんわかとした口調。
だが、烈達は絆されることなく、真剣な表情を変えない。
両者の間にしばらく沈黙が流れた後、明里が口火を切る。
「つまらない三文芝居は、もう十分でしょう。あなただって、本当はとっとと本題に入ってほしいと思っているんじゃないですか?」
「……なんのことかしら? よく分からない」
「あくまで白を切りますか? 柳先生と同じですね。それとも、あえて同じ行動をなぞっているのでしょうか?」
「……」
「いいでしょう。なら、我々が率先して話を進めてあげましょう。あなた、八年前の青薔薇の貴公子本人ですね?」
「私が? 面白い話ね。明里さんは随分想像力豊かな子なのね。いいわ、時間はあるし、少しお話に付き合ってあげる」
逢蕾花の皮肉を気にせず、明里は言葉を続ける。
「苫米地さん、あなたは花咲さん死亡直後に学校側から我々の監視を仰せつかり、烈くんに接触した。しかし、実際は我々の味方をし、学校側には我々が捜査していないと報告して、烈くんには捜査のアドバイスもしてくれていたそうですね?」
「そうよ」
「では、何故ボクには接触してこなかったんですか? 烈くんとは一対一で何度も面談をしたのに? ボクを、避けていたのですか?」
逢蕾花は両手を振って否定。
「避けていたなんて、とんでもない。明日見さんに接触しなかったのは、話をするのが難しいと思ったから。剛村くんとはある程度交流があったから、すぐに私のことを信用してもらえた。だけど、明日見さんとは事件前まで話をしたことはなかったでしょ?」
「ですね」
「その私がいきなり来て、学校から監視を頼まれているけど、あなた達の味方をするつもりって言っても、信じてもらえないでしょ。特に明日見さんのような警戒心の強い子には。明日見さんの担任の先生が様子を見るということだったし、剛村くんから明日見さんの行動も聞けるから、無理に接触する必要はないと考えたの」
「なるほど。もっともらしく聞こえますね」
「らしくじゃなくて、そうなの」
「警戒心が強いのは、むしろあなたの方では? ボクに接触しなかったのは、自分が青薔薇の貴公子だとバレるリスクをなるべく抑えるため。烈くんの方が御しやすく、ボク達や警察の捜査情報を得られる」
「……それが青薔薇の貴公子だという根拠? だとしたら、弱すぎるわ。明日見さんの単なる妄想にしか聞こえない。もし、推理小説だったら、駄作の烙印を押されるわ」
両者共に一歩も引かずに舌戦を繰り広げる。女性同士の戦いの迫力に、烈は思わず息を呑む。ただ見守ることしかできない。
「確かに妄想と笑い飛ばされるでしょう。……ここまでなら」
明里は挑発的な笑みを浮かべて見せる。
「では、一つ一つ、あなたが殺人鬼だという証拠を丁寧に提示していきましょう。覚悟してくださいね」




