第7話
週最後の金曜日。
特に大きな事件や波乱はないまま、今週がもう終わろうとしていた。
烈のクラスは午前最後の授業である、理科室での実験を終えた後、ホームルームへと移行。
ホームルームの最後、クラス長の男子生徒が逢蕾花に花束を渡した。この花束はクラスメイトがお金を出し合って買ったもの。逢蕾花を激励したいが、直近で凄惨な事件が起きており、あまり大騒ぎはできない。せめてもの手向けとして、花を贈ることにしたのである。
「苫米地さん、教員として頑張ってください。苫米地さんなら、きっといい教師になりますよ」
クラス長から励ましの言葉をかけられ、逢蕾花は目の端に涙を溜める。
「皆、ありがとう。この三週間はとても楽しい実習だった。……残念ながら、悲しいお別れがあったけど……」
クラスメイト達は、逢蕾花の言葉に真摯に耳を傾ける。
「人生には辛いことがたくさんある。だけど、同じぐらい救いもある。私は生徒達を救える教師になるつもり。だから、皆も頑張って。理不尽に負けないで。きっと君達を救ってくれる人が現れるはずだから」
逢蕾花の言葉でホームルームは締められる。最後にクラスメイト全員で写真を撮影した後、多野と逢蕾花は職員室へと戻っていった。
金曜日の職員室には、いつもより弛緩した空気が流れている。ここ週週間は教師にとっても苛烈な日々であり、様々な対応で疲弊していた。明日から休日であり、学校の業務からようやく解放されると教員達は喜んでいるのだ。
同じく職員室にいる青薔薇の貴公子も涼しい顔をしながら、心の中では今日が何事もなく終わることを喜んでいた。
その歓喜を邪魔するかのように、ポケットのスマートフォンが震える。確認すると、一通のメールが届いていた。メールアドレスは使い捨てのフリーアドレスであり、差出人の名前もなし。
文面には、こう書かれていた。
よう、俺を殺しておきながら、お前はなにのうのうと楽しそうに生きているんだよ。この人殺しが。
俺は決して恨みを忘れないからな。今日の十四時に理科室に来い。
来ないとどうなるか、分かっているな?
柳。
メールの文面を見た青薔薇の貴公子は、口角を上げる。
死人からのメールなど来るはずがない。柳を騙った誰かがメールを送ってきたのだ。
以前と全く同じ手口。彼らだ。
……やはり、来たか。
ある程度、予想はしていた。彼らのことだ、自分を簡単に逃すはずはないと。
彼らは最大の難関。だが、言い換えれば、その難関さえなんとかすれば、しばらくの間は安泰となる。
時計を確認すると、現在の時刻は正午を回ったばかり。二時間の猶予がある。それだけあれば十分だ。
自分に対処する時間を与えたのは、大きな間違いだったと思い知らせてやろう。
十三時五十五分。
校舎三階の理解室には、烈と明里がいた。彼らは一言も喋らず、ただひたすらその置きを待っている。校内には生徒はもうほとんど残っておらず、理科室の壁時計の音がやけに大きく聞こえる。
やがて長身がかちりと音を立て、十四時を指し示す。
同時に理科室の扉が静かに開いた。
扉を開けた人物、苫米地逢蕾花はニコニコといつものように人の笑みを浮かべていた。
「あら、剛村くんと明日見さん? 二人ともどうしたの?」




