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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第5章 黒幕

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第6話

 萌絵が亡くなって二回目の水曜日。柳が死亡してもうすぐ一週間が経とうとしているが、青薔薇の貴公子のものと思われる新たな事件は発生していない。

 世間では、柳が青薔薇の貴公子がどうかという論争が勃発している。すでに警察が否定しているのだが、警察発表を信じない層が一定数存在するのだ。柳は無実であり、真犯人を未だに逮捕できていない警察が犯人としてでっち上げた、という陰謀論まで飛び交っている。

 騒がしい世間に比べ、烈の高校はとても静かった。登校する生徒が減っているのもあるが、教師や生徒は今回の事件になるべく触れないようにしている。柳が死亡した直後は彼への罵詈雑言をそこかしこで聞いたが、今は事件を話題する生徒の方が少数派。

 この学校のように、世間の関心もいずれ薄れていくだろう。警察は自分を捕まえようと捜査を続けるだろうが、()()()()()()()。すでに柳が八年前の事件の犯人ではないとバレてしまったが、捜査撹乱には十分。きっと今回も自分は捕まらない。

 校内の廊下を歩きながら、心の中でドス黒い考えを巡らせる人物が一人。

 生徒からの挨拶に笑顔で応えるその人物こそ、本物の青薔薇の貴公子である。すれ違う生徒達は、その人物が連続殺人鬼だとは夢にも思わないだろう。

 ん? 何かおかしい?

 青薔薇の貴公子は今日の生徒達の雰囲気が、ここ数日のものと違うことを敏感に感じ取る。

「ねえ、聞いた? なんか、警察が学校や生徒のことを嗅ぎ回っているらしいよ」

 とある女子グループの近くに来たとき、不穏な言葉が聞こえてきた。青薔薇の貴公子は歩くスペースを落とし、横を素知らぬ顔で通り過ぎながら彼女らの会話に神経を集中させる。

「うそ! あの事件ってまだ終わってないの?」

「スニーカーだったかな、限定ものの靴が現場にあったらしくて。ほら、柳が死んだ場所。あそこにもう一人共犯者がいたんだって。その共犯者がスニーカーを履いていて、警察が持ち主を特定しようとしているみたい」

「えー、共犯者!」

 息を呑む女子生徒達。だが、それは青薔薇の貴公子も同じだった。

 スニーカーって、()()()()()()()()()()? 何故、警察が執着している?

 少し考え、青薔薇の貴公子はすぐに結論に行き着く。

 あの日は地面が前日の雨で泥濘んでおり、現場に足跡が残ってしまったのだ。青薔薇の貴公子は自身の痕跡が残らないよう神経質に行動していたが、暗闇で自身の足跡を見落としてしまった。そして、警察が後日足跡に気がつき、柳の関係者かもしれないと探している。

 青薔薇の貴公子は自身の落ち度に目眩を覚えるが、なんとか自分を落ち着かせようとする。

 とにかく、今の警察の動きを把握しなくては。()から聞き出さないと……!



 帰りのホームルームが終わり教室を出ようとした烈を、担任の多野が呼び止める。

「剛村くん、ちょっといいかな?」

 多野は呼び止めた理由を言わないまま、烈を連れて校長室へと入っていった。校長室には春野校長、教頭、明里、明里の担任、そして逢蕾花がいた。春野校長から促されるまま、ソファに座っている明里の横に腰を下ろす。今の状況は、以前の呼び出しと全く同じ状況。柳がいないのが、唯一の違いである。

 最初に口を開いたのは、春野校長。

「剛村くんと明日見さんに少し聞きたいことがあってね。今、学校内でとある噂が流れているんだ」

「その噂というのは、とあるスニーカーをこの学校関係者が持っていないか、警察が捜査している、というものでしょうか?」

 明里の言葉に、春野校長は「うん」と頷く。

「話が早くて助かる。それで噂は本当なのかね? そこら辺りのことは、君たちは聞いていないかい? 我々学校としては、これ以上生徒に負担がかかることを懸念しているんだ」

「ボクもよく分からないですね。烈くんはどうだい? 個人的に仲が良い刑事さん達がいるだろう?」

 話を振られた烈は渋い顔を作る。

「いや、警察の内部情報を話すのはなあ……」

「学校側も困っているんだ。捜査に支障がない範囲なら、教えてあげてもいいんじゃないのかい?」

 尚も悩む烈に、春野校長が「明日見さんの言う通り、可能な範囲でいいんだ。私たちに教えてくれないかい。生徒に悪影響が出ないか、事前に知っておきたい」と頭を下げる。

 少し逡巡した烈は「分かりました」と応えた。

「正直、俺も詳しいことは知らないんすよ。ただ、スニーカーを調べているのは確かみたいです。柳、先生が死んだ場所の近くにスニーカーの足跡があって、事件の関係者かどうか明確にしたいと」

「そこまでは私も理解できる。だけど、何故生徒のことを調べようとしているのかな?」

「事件の被害者と加害者がこの学校から出たじゃないですか? それでとりあえず、生徒や学校関係者を調べてみようって考えみたいです。これ以上のことは、俺も分かりません」

 春野校長は腕を組み、悩ましげに唸る。

「そういうことか……。剛村くんは刑事さんと親しいんだよね? 申し訳ないが、君の方から刑事さんに口添えをしてもらえないかい? 生徒の心情を第一に考えてほしいと」

「はい。言っておきます」

「頼んだよ」

 話が終わり、烈と明里は校長室から出ていった。



 烈達のやりとりを黙って聞いていた青薔薇の貴公子は、内心大いに焦っていた。

 どうやら警察は、学校関係者全員を調べ上げるつもりのようだ。剛村烈の話だと、警察は八年前の事件に関係が少しでもありそうな人間を、虱潰しに調べる方針らしい。

 なんとしてでも、自分を捕まえたいようだ。

 今のところ、警察には例のスニーカーしか当てがない。自分がスニーカーを持っていると知られても、それだけでは青薔薇の貴公子本人であるとの証明にはならない。なんとでも言い逃れはできる。

 だが、万が一、ということもある。不安分子は少ないに越したことはない。

 あのスニーカーはすぐに処分しなければ……。

 自分は使()()があるのだ。

 尊き使命を全うするため、今警察に捕まるわけにはいかない!

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