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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第5章 黒幕

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第4話

 烈が空き教室の扉を開けると、猛烈な勢いで何かが飛んできた。反射的に受け止めると、それは烈が通学に使用しているリュック。

 リュックが飛んできたであろう方向に目を向けると、明里が仁王立ちしていた。

「おい、何すんだ! 危ないだ、ろ……」

 烈は抗議の声を上げるが、その声は尻すぼみになっていく。明里がかつてないほどの冷たい目で、烈を睨んでいたからである。額には何本も青筋が浮かんでおり、こめこみが痙攣していた。

 よく分からないが、今の彼女はとてつもなく機嫌が悪い。迫力に烈は気圧されるばかり。

 以前、テレビで美人は怒ると怖いという話題が議論されていたが、なるほど、その通りだ。容姿が優れている相手に睨まれると、例え怒りの理由に身に覚えがなくても、自分に自己嫌悪の感情が浮かんでくる。

 明里のただならぬ様子に、通りかかった生徒達は彼女の後ろを早歩きで通り過ぎたり、来た道を戻ったりしている。明里の発する雰囲気に怯えているのだ。

 明里の声音はいつもより低い。まるで自身の怒りに無理やり蓋をして抑えているように。

「ボクね、烈くんと一緒に帰ろうと、君の教室に迎えに行ったんだよ。そしたら、君の姿が見えなくてね、水原くんとやらが教えてくれたよ。綺麗な教育実習生と二人でどこかに()()()()()()()()とね。学生の身分で、ずいぶんインモラルなことをしているじゃないか。ん?」

 水原の野郎……!

 なんとも誤解を招きやすい説明だ。いや、あえてそのような表現を使ったのだ。今頃、笑っているであろう水原に、頭の中で思いつく限りの罵声を浴びせる。

 不純異性交遊をしていると、明里は誤解して怒っているようだ。烈は弁明しようとするが、明里はその時間すら与えてくれない。

「ほら、帰るぞ」

「いでで! 耳をひっぱるんじゃねえよ!」

 烈の右耳を力一杯引っ張り、学校の玄関まで連行していく。あまりの痛さに、烈は少し涙目に。すれ違う生徒達は何事だと目を丸くしていた。

 明里は靴を履き替える際には指を耳から離してくれたものの、帰り道の間ずっと小言を烈に浴びせかけていた。

「女子大生にデレデレ鼻の下を伸ばしやがって。もしかして、烈くんは年上好きか? ボクの記憶では、できるだけ歳の近い子が好みだと言っていた気がするが。結婚するなら、年齢に差がない相手がいい。話題のズレがなく、ジェネレーションギャップが少ないからね。つまり、同い年の幼馴染が最強なんだ。負けヒロインでは、断じてない!」

「お前が一体何を言っているか、さっぱり分からん」

 明里は幼馴染がいかに尊く、素晴らしい存在であると熱弁。だが、烈には彼女の主張が半分も理解できなかった。

「烈くんは肉体が成熟している方がいいのか? だったら、ボクは決して負けていないぞ。ボクの方が胸は豊満だし、あの女子大生は平らじゃないか」

 明里はそう言い、自分の胸を掴んで見せる。ワイシャツを押し上げる胸の膨らみに、烈は顔を赤くしながら視線を逸らした。

「俺自身の名誉のために言うが、決して女性の身体をいやらしい目で見ているわけじゃないからな。……あと、今の話を本人には絶対言うなよ」

 烈は女心をよく知らないが、女性の身体的特徴を揶揄することが、戦争開始のゴングだと簡単に想像できる。

「それでなんて名前だったかな、あの女子大生と烈くんは()()()()で、密室で何をしていたんだい?」

 やたら二人きりを強調する明里。烈は「やましいことはしていないぞ」と否定。

「単なる面談だよ。今回の、柳のことで思い詰めていないかとか聞かれた」

「なんだ、そんなことか」

 明里は笑みを浮かべる。どうやら、少し機嫌が治ったらしい。

 烈は明里のとある言葉が聞き逃せなかった。

「明里は、つぼみちゃん先生の名前を知らないのか?」

「うん。知らない。つぼみというのが彼女の名前なのかい?」

「いや、それは渾名で、本名は苫米地逢蕾花だ」

「随分、変わった名前だな。中々渋い」

 明里のリアクションから、彼女は本当に逢蕾花の名前を知らなかったらしい。

 だけど、それはおかしいのだ。

「いくらなんでも淡白すぎないか? 学校側から俺達の監視をしろと言われていたのに見逃してくれて、相談にも乗ってくれていただろ?」

「……君は一体何を言っているんだ?」

 会話が噛み合わないと、烈と明里はお互いに怪訝な顔を向ける。

「いや、つぼみちゃん先生と定期的に面談していたよな? それで水曜日のことや、犯人像のアドバイスをしてくれて……」

「それらは君の推測じゃなかったのか?」

「あ、やべ……」

 逢蕾花の考えだとは言わないでくれと口止めされていたが、つい喋ってしまった。我ながら最近口が軽いと思う。

「おい、どういうことだ? 話が見えないぞ。きちんと説明したまえ」

 明里は鋭い目で烈を射抜く。ここまで失言をしてしまったのだ、もう正直に言うしかない。烈はこれまでの逢蕾花とのやりとりを全て話した。

 話の間、明里の表情は暗いものへと変わっていく。

「ほう。君にはボクというパートナーがいるのに、別の女性と裏で隠れてそんなことをしていたとはな。とんだ裏切り者だ。ワトソンはシャーロック・ホームズを裏切ったことなど一度もないのに!」

 何故、世界一有名な名探偵を出したのかよく分からなかったが、明里としては逢蕾花とのやりとりが面白くないようだ。

「いや、隠していたつもりはないぞ。明里もつぼみちゃん先生とは色々やりとりをしていただろ?」

「ボクは()()()()()()()()()()()()()()()()

「……話したことがない?」

 そんな馬鹿な。

 烈は口から出かかった言葉を飲み込む。

 思い出してみれば、烈は明里と逢蕾花が会話している姿を見たことがない。

「学校、教師から花咲の事件の捜査をしていないかとか、聞かれなかったのか?」

「もちろん、そのような探りは入れられたよ。だが、ボクの担任から時々立ち話をされる程度だったよ」

「そういえば、俺の担任の多野も同じだったな。じゃあ、本当につぼみちゃん先生から個別に呼び出されて話をしたということはないんだな?」

「だから、そう言っているだろう」

「……どういうことだ?」

 以前、逢蕾花は学校が烈達の動向を気にしており、自分を使って萌絵殺害の捜査をしているかどうか、調べようとしていると打ち明けた。だから、烈はてっきり明里も自分と同じ対応をされているのかと思っていた。だが、烈の勘違いだったようだ。

 しかし、何故対応が違う? 学校は明里が事件に首を突っ込む性格だと知っており、烈よりも厳重にマークするはず。それなのに、逢蕾花は烈にだけ接触していた。もしかして、逢蕾花の行動は学校の指示によるものではない? 多野、もしくは逢蕾花独自の行動なのだろうか?

「ボクの方には来なかった。妙だな……」

 明里も対応の違いが気になるようで、歩きながら黙考。烈は彼女の思考を邪魔しないよう、口を閉ざす。考え事を中断されるのを嫌うから。

 やがて二人は自宅に到着。

「じゃあね、烈くん。君にとって信頼できる一番の異性はボクなんだから、何かあったら自分に真っ先に相談しなさい。分かったね? 返事!」

「はいはい」

「返事は一回でいい。それにしても逢蕾華、逢蕾華。どこかで……」

 明里は何かぶつぶつと独り言を言いながら、自分の家へと入っていった。

 烈も「ただいま」と帰宅を告げながら、自宅へ帰還。

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