第3話
空き教室に入ると、烈は机を挟んで逢蕾華の正面に座る。こうして呼び出されて彼女と話をするのも何度目か。
「こめんね、剛村くん。急に呼び出して。」
「気にしなくていいよ。このあと、特に予定ないし」
これも幾度も繰り返したやりとりだ。
「俺に話ってなに?」
「ちょっと剛村くん達の様子を聞きたくてね。今日学校に来て分かったと思うけど、精神がやられちゃって休んでいる生徒達がいるの。それで剛村くんは大丈夫かなって。あとから聞いたんだけど、その、柳先生とドンパチやったそうじゃない?」
柳との死闘のことを言っているのだろう。逢蕾華なりになるべく穏やかな言葉を選んだようだ。
「ああ。俺も明里も大丈夫だよ。特に問題はない」
「本当? 痩せ我慢はしないでね。あまり詳しくは言えないけど、生徒の中にはパニック障害になったり、引き篭っちゃった子がいるの。学校からの連絡すら拒否する子がいて」
「え、そんなことになってるの?」
「うん。学校側もある程度そういう生徒が出ることは予想していたんだけど、想定以上でね。生徒のケアに手が回っていないの」
事件の事後処理に、マスコミ対応、そして大勢の生徒達のケア。この学校の教師陣が過労死しないか、烈は本気で心配になる。春野校長はスクールカウンセラーを一人追加すると言っていたが、全く足りたいだろう。
「そうか。つぼみちゃん先生の方は?」
「私?」
「つぼみちゃん先生こそ、色々と大変だろ。教育実習生なのに、教師の仕事も肩代わりさせられて」
「そうね。本音を言っちゃうと、かなり大変。大学に実習の報告書も提出しないといけないし、あまり眠れてないの」
よくよく見ると化粧で隠しているが、逢蕾花の目の下にクマがある。烈の目には相変わらず元気に見えるが、空元気なのだろう。
「別に蕾ちゃん先生がこの学校に尽くす義理はないだろ」
「教育実習が今週で終わるから、できる限りのことはしたいの」
「そういや、今週までか」
烈は逢蕾花の実習期間が三週間であることを思い出す。この三週間は様々な出来事が怒涛の勢いで襲ってきて、烈としてはとても短く感じた。きっと逢蕾花も同じだろう。
逢蕾花はしみじみと呟く。
「本当に様々な出来事が起きたわね。実習前は浮かれてたけど、まさか生徒が殺されて、しかも教師が殺人を犯すとは思いもしなかったわ」
「だろうね。ちなみにさ、蕾ちゃん先生は柳が犯人だって気づかなかったの?」
烈の言葉に、逢蕾花は半目で呆れ顔。
「気づくわけないでしょ。あれ、この人もしかして巷を騒がせている青薔薇の貴公子かしら、生徒を殺していないかしら、って実習先の先生を疑う? 普通しないでしょ、そんなこと」
「そりゃそうだ」
明里みたいに疑り深くないと、そのような思考にはならないだろう。
「やっぱり柳先生が八年前の真犯人、青薔薇の貴公子なのかな? 剛村くん達は警察と今も話をしているんでしょ? その辺、聞いたりしてない?」
「柳は八年前の犯人じゃなかったよ。いくつかの事件でアリバイがあったんだと」
神谷からは捜査状況を喋るなと言われているが、これくらいならいいだろう。すでに幾つかのメディアが柳のことを調べ、真犯人ではないと情報を発信している。警察ももう直発表するはず。
逢蕾花は落胆したように、肩を少し下げる。
「柳先生ではなかったんだ……。じゃあ、真犯人のことはまだ分かっていないのかな?」
「んー、どうだろ。そこまでは聞いていないな。ただ、あまり進展はしていないんじゃねーのかな?」
流石に詳しくは話せないので、烈は曖昧な返答をする。
「真犯人のことは、蕾ちゃん先生も気になるの?」
「まあね。出来れば捕まってほしい。柳生先生が花咲さん殺害の犯人だと知った時は、八年前の事件も解決するかなと思ったんだけどなあ。結局、真犯人は捕まらず終いか」
「残念ながら」
「剛村くん達はこれ以上の捜査をやめるの?」
「そのつもり」
明里はまだ続ける気かもしれないが、烈としてはもうやめさせようと思う。
「うん。話したいことは一通りできたわ。残り短いけど、よろしくね」
「こちらこそ」




