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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第5章 黒幕

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第1話

 次の日の日曜日。

 早朝に神谷から警察署に来いと、烈に電話がかかってきた。その際、柳を呼び出した時の靴を持ってこいとのこと。意図がよく理解できないまま、とにかく従うことに。当時の烈は普段使いのスニーカーだったので、そのまま警察署まで履いて行った。

 明里と共に警察署に到着すると、早々に靴の足型を取られる。その後、取調室へ。

「ボク達の靴の足型を取るということは、現場に気になる足跡でもありましたか?」

 明里の質問に、神谷は「流石鋭いね」と肯定。

「君達が柳先生を呼び出した時、前日の雨で地面がぬかるんでいたことは覚えているかい?」

「はい」

「その地面に、気になる足跡が一つあったんだ」

「足跡、とは?」

「少しサイズの小さい男物のスニーカーでね。公園までは石製の階段を登るだろう。だけど、その足音は途中までは階段を使っていたんだが、公園に近づいたところで階段から外れて、横の茂みに入ったんだ。そして、再び階段の方へと戻っていった」

「確かに気になりますね」

「え? どういうこと?」

 話についていけない烈に、明里が説明してやる。

「動きがおかしいんだよ。まるで隠れてボク達のやりとりを窺っていたように見える」

「あー、そういうことか。でも、単に公園に来た人間が、俺達のやりとりに不穏さを感じて、様子を見ていただけじゃないのか?」

 烈の返しに、「その可能性もある」と神谷は頷く。

「ただ、我々警察としては、徹底的に調べておきたい」

 警察も青薔薇の貴公子関連について、慎重になっているということだ。

 三浦が「これだよ」と、スニーカーの写真を机の上に置いた。明るい青を基調としたスタイリッシュなデザインであり、烈も正直欲しくなった。

 とあるブランドの限定品であるが、製造数はかなり多く、持ち主の特定には時間がかかるかもしれないとのこと。今回の事件に関わっているかはまだわからない。

「剛村くんや明日見さんは、このスニーカーを履いていたと思わしき人物を見たかな?」

 神谷の質問に、烈と明里双方は否定。

「俺は見てないな。あん時は真っ暗だったし、男らしき影がいたとしても気づかなかった」

「ボクも。柳先生を撥ねたトラックのドライブレコーダーには、映っていなかったのでしょうか?」

「そちらも見たんだけどね、柳先生以外は映っていなかったよ。せっかくドライブレコーダーの話が出てきたし、そちらの話もしようか」

「そちらにも気になる点が?」

「映像自体はかなりショッキングだから君達に見せることはできないが、内容についてはある程度説明できる。柳先生はトラックの前に飛び出した時、まるで道路に倒れ込むような姿勢だったんだ。表情も戸惑っていた」

「倒れ込む? 転んだということでしょうか?」

「少なくとも我々にはそう思えた。君達は彼がどのように道路に飛び出したのか、見ていないんだね?」

「ボクは見てないです。烈くんはどうだい?」

「俺も飛び出した瞬間までは見ていないな」

 当時の柳は逃亡の際にパニックになっており、地面の泥濘に足を取られたのだろうと烈は考える。

 明里は「化粧品についてはどうでしたか?」と話題を変える。

「柳先生の家から見つかった化粧品は、花咲さん達被害者に使用されたものだったのでしょうか?」

「成分分析の結果、同一のものだと判明した」

「八年前の事件のものとも同じですか?」

「そちらとは違う。それで化粧品の入手経路を追っているんだが、その、彼には奥さんがいただろう? 柳先生が犯行のために用意したのか、元奥さんの所有物を使ったのか確認したかったのだが……」

「何か問題でも?」

「元奥さんが非協力的なんだ。もう関わりたくないと」

 それはそうだろうと烈は思う。

 なんたって、柳は元奥さんとの間に離婚問題を抱えていたのだ。彼の家庭での振る舞いは知らないが、生徒に対する言動からある程度は推測できる。きっと、奥さんや子供にも横柄な振る舞いを見せていたのだろう。

 その挙句、自分の高校の生徒を殺害したのだ、警察からの協力要請にすら応じたくないのは当然。

「元奥さんに取りつく島がないのは少々面倒だがね、それで捜査が止まりはしないよ。まあ、ECサイトの購入履歴など地道に調べていくしかないさ」

 烈は「なあ、神谷さん」と解消しきれずにいた疑問をぶつける。

「柳は、青薔薇の貴公子だったんすかね?」

 神谷はゆっくりと首を横に振って、否定。

「八年前においては、いくつかの事件で彼にアリバイがあったことは確認済みだ」

 これで柳が青薔薇の貴公子ではないと、確定した。

「じゃあ、模倣犯?」

「模倣犯、か……。そうだと断言するのは難しいな。柳先生のスマートフォンを調べた結果、彼はマッチングアプリで被害者、あー、剛村くん達は第二次という表現をしていたかな。第二次の被害者全員と会って、被害者達に恐喝まがいのお金の無心をしていた。柳先生は亡くなっているから推測しかできないが、おそらく彼は支配欲と金銭両方を満たそうとしていたんじゃないかな」

「なんで被害者達を殺したんすか? 生かしておいた方がいいと思うんだけど?」

 DVをする人間は、支配対象がいなくなるのを何よりも恐れる。普段からパートナーを役立たずと罵っておきながら、いざ別れを切り出されるとゴネるのはそれが理由。柳の目的に金銭も含まれていたなら女性達は生かしておくべきと、烈は考える。死んだ人間から金を巻き上げることはできないのだから。

 神谷は「多分、被害者達が歯向かったからじゃないかな?」と答える。

「彼は自分の言うことを聞かなかったから、花咲さんを殺したと言っていた。他の被害者も同じ可能性が高い。殺してしまったから、新しい女性を探すということを繰り返した」

「そういうことか……」

 柳のようなクズ野郎なら十分ありうると烈は思った。

「柳先生が青薔薇の貴公子の手口を真似した理由は、まだ判明していないのですか?」

 明里の質問に、神谷は「残念ながら」と浮かない顔。

「彼の持ち物を調べても、そこだけは未だに分からないんだ。本人から直接聞ければよかったんだが…」

 そこまで言いかけた神谷は、「あー、剛村くん達を責めているわけじゃないよ」と慌てて取り繕う。

「単に捜査撹乱のためかもしれない。まあ、その理由が判明できるかは、あまり期待できないな」

「そうですか……」

 明里はため息混じりに呟いた。彼女は謎が謎のままであることを非常に嫌う。警察なら柳の模倣の理由を教えてくれるはずだ、烈は明里がそう期待していたのだろうと推測。

「そういえば、ボク達を連れて実況見分をするという話は?」

「それなんだけどね、マスコミや動画配信者が現場に詰めかけている。センセーショナルな事件だ、彼らが喰いつくのも当然。そこに君達を連れて行けば、一体誰だときっと嗅ぎ回られるだろう。だから現場には行かず、ここで写真を使った確認にすることにしたんだ」

 神谷は、あらかじめ撮影した現場の写真を机の上に並べる。かなり細かく撮影しており、公園と、柳が事故に遭った道路までの経路の写真があった。

 神谷が写真一枚一枚について質問をし、それに烈と明里が答えていく。その作業は二時間ほどで終了し、ようやく烈達は解放される。警察署から出る際、烈達は神谷から「今日のことを含め、警察の捜査状況は絶対に喋ってはダメだよ」と何度も言い聞かされた。

 クタクタになった烈達はバスに乗って帰ることに。

 道中、明里は浮かない顔。相変わらず、今回の事件を消化できていないようだ。

「なあ、明里。今度花咲の墓参りに行かないか?」

「墓参り?」

「ああ。お前の仇を取ってやったってな」

「いい提案だ。そうしよう。来週の週末にしようか」

「決まりだ」

 烈が墓参りを提案した理由は、報告だけじゃない。

 区切りをつけさせるためだ。

 明里は残っている謎に固執しているが、いつまでもこんな事件に囚われるべきではないと烈は考えている。

 事件を思い出す度に苦しい思いをする、やるせなさを感じる。

 だから、悲しい事件など忘れた方がいい。

 数多の事件に巻き込まれた烈が編み出した教訓である。

 そうだ。今回の事件はとっと忘れて、俺達は花咲との楽しい思い出だけを覚えておけばいいんだ。

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