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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第4章 対決

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第10話

 烈と明里は事情聴取のために病院から警察署へと移動。そこで改めて聴取を取る。

 聴取は取調室で行うことに。取調室には警察官でさえ入ることを嫌がる独特の圧迫感があるのだが、烈はとうの昔にすっかり慣れてしまった。初めて入室した明里も萎縮するどころか、「ほー、刑事ドラマと同じだ」と少しテンションが上がっていた。そんな二人を見て、神谷と三浦は苦笑。

 すでに神谷達には捜査の経緯や手に入れた証拠を何度か説明している。ここでは更に詳細に、一つ一つ事実確認を行なっていく。

「ボクから少し質問があるのですが」

 途中、明里が神谷達に逆質問。

「なんだい?」

「警察は柳先生の自宅に家宅捜索に入っているのでしょうか?」

 神谷は三浦と不思議そうに顔を見合わせた後、「何故、そんなことを知りたいのかな?」と真意を尋ねる。

「柳先生が青薔薇の貴公子という証拠を見つけたのかどうか、気になりまして」

 それは烈も気になっていた。何故柳が青薔薇の貴公子事件の手口を模したか、まだ分かっていないからだ。

「……」

 柳達は即答しない。それはつまり、何かを見つけており、烈達に言うべきか迷っているということ。

「刑事さん達、ボク達は普段から柳先生に接していたんですよ。警察にとっては何気ないものでも、ボク達なら意味を見出せるかもしれない。実際、そうやってボク達は柳先生が花咲さんの殺害の犯人だと突き止めたのですから」

 明里の話術は実に巧み。同じ学校の生徒というアドバンテージと、それによる実績を提示することにより、警察相手から情報を引き出そうとしている。

 柳は腕を組みしばし考え込んだ後、「……分かった」と答える。三浦が「ちょっ! 神谷さん」と抗議するも、神谷に片手で制される。ベテランの大先輩には逆らえない。

 みだりに部外者には言わないという条件付きで、話してもらえることになった。

 柳の自宅からは複数の青い薔薇のコサージュや、相手を絞殺するために用いたであろうワイヤーが見つかったそうだ。他にも青薔薇の貴公子第二次の被害者達の財布やスマートフォンが次々と発見されている。彼が第二次の事件に関係していることは明白である。

「化粧品はありましたか?」

 明里の質問を受けた神谷は「どうなんだ?」と三浦に話を振る。三浦は手帳を見ながら、「はい、化粧品は何点かあったと報告を受けています」と回答。

「刑事さん、素人のボクが言うのも差し出がましいですが、化粧品についてはしっかり調べた方がいいですよ。被害者に使われたものかどうか。八年前の犯行にも使われたものか」

 柳は「もちろん」と頷く。

「君がそこにわざわざ言及するとは、何か思うところがあるのかな?」

「はい。柳先生に化粧ができるのか、疑問なんですよ」

 柳が生徒指導で女子生徒の化粧を注意した時、化粧をお絵描きと表現していたエピソードを明里が話すと、神谷は渋い顔をした。

「確かに彼が遺体に化粧を施せたのか、気になるね。女性の警察官や鑑識の話だと、遺体への化粧はかなり上手い人間がしたようなんだが。うん、分かった。その点は留意しておくよ」

「お願いします」

 その後の聴取は数時間に渡り、夕食のために一時休憩。神谷の奢りで出前をとってくれた。烈はいつも奢ってもらっている負い目から安い品を頼んだが、一方の明里は遠慮などせずにお高めの料理を選択。「せっかくの向こう持ちなんだから、食べたいものを頼むべきだ。ボク達は協力しているんだからね」というのが彼女の弁。

 この豪胆さと厚かましさは烈も見習いたいと思う。

 聴取は深夜にようやく終了。実況見分についてはすでに遅い時間帯ということから、後日行うことになった。

 迎えが来るまで、烈達は署の応接室で待つことに。その間、烈はスマートフォンで今回の件に対する世間の反応を確認。すでにメディアには柳が萌絵殺害の犯人であり、事故で死亡した情報が出回っていた。烈達が柳を追い詰めたことについては、どの媒体もメディアも触れていない。神谷達警察が配慮してくれたのだろう。

「……烈くん」

「ん?」

 明里から話しかけられ、烈はスマートフォンから顔を上げる。

「君はこれで事件が終わったと思うかい? ボクはね、違和感があるんだよ」

「違和感? さっき言ってた化粧のことか?」

「それもある」

「それも? 他にあるのか?」

「うん。腑に落ちないことがたくさんあるんだ。神谷さん達の話から、柳先生が花咲さんを含んだ第二次青薔薇の貴公子事件の犯人だということは分かった。これは前にも話したが、何故彼は八年前の青薔薇の貴公子事件を模したのだろうか? 彼の近況や被害者の財布やスマートフォンを持ち去ったことから、お金が目的であることは明白だ。警察の捜査を撹乱したいなら、遺体を隠すなり、怨恨だと偽装すればよい。わざわざ目立つ必要はない」

 明里はそれだけじゃないと続ける。

「柳先生は()()()なんだ」

「間抜け?」

「ボク達は花咲さんのプロフィール画像に写っていた指輪から、柳先生に行き着いた」

 明里は『ボク達』と表現したが、犯人が柳だと気づいたのは正確には明里だけである。烈は明里からの説明で初めて柳が犯人だと理解できた。

「ボク達は柳先生の言動を学校で見ているから、比較的早く柳先生に辿り着けた。だが、警察も時間をかければ、いずれ柳先生が犯人だと分かっただろう。ボクが柳先生の立場だったら、写真には指輪を写さない。だって、指輪を調べられたら、柳先生夫婦しか持っていないって分かるのだから。呼び出した場所で男性に初めて指輪を見せる。相手が既婚者とは知らなかったと弁明しても、脅して殴ってお金を奪う」

「そう言われれば、そうだな。なんというか、わざわざ余計な行動を複数しているな。自分の首を絞めている」

「そうなんだ。その一方で捕まらずに何件もの殺人を犯している。そちらは柳先生の犯行だとよくバレなかったものだと思う。彼は直情的なタイプだが、何故か殺人の方はうまく警察の捜査をかわしている」

 明里としては、残っている全ての謎を解き明かさないと気が済まないのだろう。だから、あれこれ考察しているのだ。

 だが……。

「だがよ、俺達に出来ることはもうないだろ? お前だって言ってただろ。これで終わりだって。俺達の目的は達成されちまったって」

「花咲さんの件についてはそうなんだけど……」

 明里はどこか納得できない様子。

 しかし、明里の心情などもう関係ない。

 これ以降は警察に任せるしかないのだ。

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