第1話
週の最後の平日、金曜日。
大抵の人間はこの日を乗り越えることができれば、翌日から休みにありつける。週末の予定を夢想しながら、この一日が早く終われと学生もサラリーマンも願う。
だが、烈達の通う高校は違った。生徒が亡くなったばかりの学校は、一週間経とうとしている今も暗い。生徒も教師もなんとか重苦しい校内の空気をなんとかしようと無理に振る舞っているが、笑ったり楽しい話題を出すのが憚られる雰囲気が校内に漂っている。
だが、男はそんな校内のことなど微塵も気にしていなかった。
何故なら、彼が花咲萌絵を殺害した張本人だから。
しかし、殺害を全く後悔していないわけではない。
あんな便利な道具をついうっかり使い潰してしまったと、少しだけ惜しく思っている。
もっとアレを使って金を稼ぎたかったな。これからどうやって稼ぐか? 新しい道具を探しに行くか。……それとも……。
男が受け持ちのクラスの日誌をつけながら邪悪な考えを抱いていると、デスクの上に置いておいた男のスマートフォンが震える。目を向けると、ロック画面の状態でマッチングアプリからの通知が届いているのが見えた。女性からの誘いである。
丁度いいタイミングだ。使える道具かどうか、見極めてやるか。
今はまだ業務中なので軽く見るだけに留めようと考えながら、ロックを外してマッチングした相手を確認。
「……は?」
男の口から無意識に間抜けな音が漏れる。
マッチング相手のプロフィール画像には見覚えがあった。
花咲萌絵だ。彼女が使っていたプロフィール画像。
嘘だろ? なんで? あいつは俺が殺したはずなのに……!
男の顔から血の気が引いた。全身の血がまるで足先からストンと流れ出たように、身体に凄まじい悪寒が走る。
他の教員に見えないよう、スマートフォンを机の下に隠しながら、送られてきたメッセージを開いた。
内容は短く一文。
今日の午後七時、私の命を奪ったあの場所で待っています。
いや、待て待て。落ち着くんだ。死んだ人間にこのようなメッセージを送れるか?
よくよく見ると、名前とプロフィール画面は全く同じであるが、一意に付与されるアカウントIDは違う。男のアカウントには、すでに花咲萌絵のアカウントが登録されている。今メッセージを送ってきたのは、彼女のプロフィールを真似した別のアカウントだ。
彼女が化けて出たとしても、わざわざ別のアカウントを作成してメッセージを送ってくるのはおかしい。本来のアカウントを使用するはず。
つまり、メッセージの送り主は花咲萌絵とは別人である。
幽霊ではない。生身の人間。
悪質な悪戯かと考えていると、次のメッセージが来た。彼はすぐさまメッセージを開く。
怖いなら、無様に尻尾を巻いて逃げてもいいですよ。
その言葉は、彼の心情を一気に怒りへと塗りつぶした。
逃げる? この俺が? なめやがって……!
メッセージが男のアカウントに送信されてきたということは、相手は男が殺害の犯人だと確信している。どちらにしろ、無視はできない。何らかの手を打つ必要がある。
……いいぜ。やってやるよ。この俺を怒らせたらどうなるか、骨の髄まで思い知らせてやるよ!




