第15話
「待ってくれないか!」
烈は明里の説明に、横から口を挟む。
「花咲が久我さんとマッチングした相手だということまでは理解できた。だけど、なんで明里は花咲がそうだと分かったんだ?」
明里の推測は結果的に当たっていたが、烈には論理が飛躍しているようにしか思えない。その結論に至った過程がどうしても見えてこない。
「別にボクは当てずっぽうで言ったわけじゃないよ。一週間ほど前、ボク達は久我さんの嫌がらせをやめさせようと彼を呼び出した。 あの時は花咲さんもいたが、彼女は久我さんの顔を見るなり、挙動がおかしくなって自分抜きで交渉してほしいと、逃げるようにその場を離れただろう?」
「あれは、当時怒っていた久我さんを直に見て怯えただけじゃないのか?」
「最初はボクもそう思っていた。だが、当時の彼女をよく思い出してほしい。花咲さんは自分の友人を苦しめる久我さんを許さない、締め上げてやると血気盛んだった。その彼女が土壇場で逃げ出すだろうか? 久我さんは貧相なヒョロガリで、威圧感のある見た目ではないのに」
「……悪かったな、貧相なヒョロガリで……」
久我の細やかな抗議を、烈と明里はスルー。
明里の主張通り、萌絵の性格上友人を見捨てて逃げるとは思えない。彼女は正義感が強いし、執着している絆を簡単に捨てるはずがない。
「花咲さんがマッチングアプリに登録していたと聞いた時、もしやと思ったんだ。花咲さんは久我さんの外見にではなく、彼との直接の接触を恐れていたんじゃないかとね」
「そうか。久我さんと対面したら、自分がマッチングした相手だとバレるからか。下手したら、俺達にも自分の行いが知られていたかもしれない」
「うん。それで久我さんに確認した結果、ビンゴだったということさ」
推測の流れを聞いても、流石としか言いようがない。烈だったら、この推測に行き着くまでかなりの時間を要しただろう。この幼馴染の記憶力と洞察力は羨ましい。
「でも、なんで花咲はその、美人局の共犯をしていたんだ?」
あの萌絵が犯罪に手を染めるとは、どうしても烈に思えない。というか、信じたくない。
「……アイツ、金に困っていたのかな?」
「お金ではないだろう。彼女の家庭は片親だが、母親は会社でそれなりの地位にいる。花咲さん自身についても、金遣いが荒いとは聞いたことがない」
「じゃあ、なんで?」
「理由も、彼女の過去の言動からある程度推測できる。あの日の帰り道、烈くんは花咲さんから美人局についてどう思うかと聞かれたね? 美人局をした人間にも、何か致し方ない事情があるのではないかと」
「あ、ああ……」
「それに対して君はこう答えた。例えどんな理由があろうと、他人を傷つける理由にはならない。現状と戦わないといつまで経っても変われないと。その返しを聞いた花咲さんは、烈くんの強さを見習う、私も戦うと決心を決めていた」
「……なんでそこまで知ってるんだよ? さては俺達の会話を盗み聞きしていたな。趣味が悪いぞ」
「ボクは君の幼馴染なんだ。君が他の女性とどんな会話をしているのか、監視するのは当然だ」
「どんな当然だ。聞いたことねーよ」
あの会話を聞いていたとは……。すげー地獄耳だ。
当時の明里と烈達との距離は少し離れており、周囲には多くの人間がいた。雑多な音が行き交う中で烈達の会話が聞こえていたのだから、明里はかなり集中して耳を傾けていたのだろう。
「まあ、そんなこと今はどうでもいい。重要なのは、花咲さんの言動だ。君との会話からは二つのことが読み取れる。一つ目は、加害者にも何か理由があると擁護していたこと。これは後ろめたさからの自己弁護だろう。そして、二つ目は何かと戦うと心に決めたことだ」
「何かと戦う……」
烈は萌絵が戦おうとした敵とは一体どういうものかと考え、彼女が誰かから暴行を受けていたことを思い出す。
「花咲は夫のフリをしていた男に、暴力で無理やり従わされていた?」
明里は「その可能性が高い」と頷き、久我に顔を向けた。
「久我さん、あなたは花咲さんと男性のやりとりを見ていましたか? その時の二人の関係性はどのようなものに感じましたか? 仲睦まじかったですか?」
少し間を置いてから、「……いや」と久我は否定。
「あの二人の関係はかなり歪だったな」
「具体的には?」
「男は徹頭徹尾、俺や女の子に対して非常に高圧的。同じ人間に向ける目じゃなかったな。俺から金を奪った後、これくらいの金じゃ全然足りない、なんでもっと金を持っている奴を選ばなかったんだと、女の子をすごい声で怒鳴っていた。あの剣幕で詰められていたもんだから、女の子はごめんなさい、ごめんなさいとただ怯えて謝るだけ。今思えば、可哀想な様子だったよ」
「つまり、花咲さんは男性が怖くて従っていた、と?」
「俺の主観では」
「では、三つ目の質問をします。これで最後です。件の男性はこの人ですね?」
明里は自分のスマートフォンを操作し、萌絵の画像とは別の画像を画面に出した。久我は「コイツだ、コイツ! 俺から金を奪った奴!」と興奮気味に画像の人物を指差す。彼の中では依然として怒りが燻っているようであり、画像を鋭い目つきで睨みつける。
烈も画像を凝視していたが、浮かべる表情は全く異なるもの。
こいつが、犯人……?。マジか……。
烈はただただ戸惑う。
写真の人物が、よく知る身近な人物だったからだ。




