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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第1章 変人の幼馴染

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第3話

 自分の教室に戻った烈は、一人残ったクラスメイトの女子生徒を見つけた。少しだけ茶色い髪をミディアムヘアにしている彼女は烈を見るなり、悪戯がバレたような可愛らしい笑みを浮かべる。そんな女子生徒に、烈は荒く足音を立てながら近づく。

「花咲、なんだよあの手紙!」

「何って、君の可愛い幼馴染からの呼び出しだよ」

 花咲(はなさき)萌絵(もえ)は烈の一つ前の席に座っている女子であり、あの手紙を渡してきたのは彼女だ。

「その顔、手紙の内容を知ってたな。なんで、あんな思わせぶりな態度だったんだよ?」

「明日見さんの入れ知恵だよ。烈くんは普通に呼び出しても絶対こない。だから、ラブレターを装えば、モテたことがない烈くんなら舞い上がってノコノコくるはずだって」

「あの野郎……!」

 男の純情を弄びやがって。人によってはトラウマもんだぞ。

 だが、悲しいことに烈が舞い上がっていたことは否定できない。

「てか、花咲は明里と面識があったんだな。いつの間に知り合った?」

「うーん、一週間ぐらい前だったかな。お昼ご飯を食べに学食に行った時に、相席になってそこで仲良くなった」

「ふーん」

「それにしても、明日見さんは()()()()()()()()だったね」

 明里はこの高校の中において、かなりの有名人である。

 彼女が注目を最初に集めたのは、一年前の入学式の時。整った顔立ちとクールな雰囲気から、生徒や教師達の視線を独占。特に男子生徒は彼女に見惚れていた。

 高校生の恋愛にとって、容姿は重要な要素。式が終わった後、隣に座った男子生徒から一目惚れだと告白されたのは今でも語り草。以降も多くの男子から毎日のように告白されていた。

 だが、数ヶ月後に告白する男子はいなくなる。明里がどういう人間かわかってきたからだ。

 明里は事件事故に片っ端から首を突っ込む変人。年頃の女子が好むファッションやアイドルには興味を示さず、事件を嬉々として話すのだ。

 見る分にはいいけど恋人として付き合うのはちょっと、となったのである。

「明日見さんは昔から事件に興味を持つ子だったの?」

「そうだよ。あいつの親父さんは作家で、推理小説やドキュメンタリーの本を書いてる。その影響を受けたからか、小さい頃から事件に興味を持つようになった」

「なるほどね。それでなんで烈くんを巻き込もうとするの?」

 烈の「俺の体質」と短い答えに、萌絵は「あー」と納得したような声を上げる。

「ほら、俺はよく事件に遭遇するだろ。俺を連れ回せば、事件の方から来てくれると思っているみたいだ」

「あはは。そういえば、昨日も事件に出くわしたんだよね。コンビニ強盗だっけ?」

 萌絵は烈の顔を両手で触り、心配そうに覗き込む。

「ネットニュースで見たけど、相手はナイフを持っていたんでしょ? 怪我はなかった?」

 女の子特有の柔らかい手の感触に気恥ずかしさを感じた烈は、「大丈夫だ」と優しく萌絵の手を自身の顔から外す。

「私が烈くんと同じクラスになってからすでに二件目だよ。君は一体何件遭遇しているの?」

「今年で五件目だ。月一のペース」

「警察にも顔を覚えられたんじゃないの?」

「すっかり常連だよ。昨日もまた君かと知り合いの刑事に言われた」

「警察の常連って聞いたことないよ」

「ああ。全くだ」

 烈は教室の壁時計を確認。萌絵とおしゃべりをしている間に大分時間が経っていた。

「俺、帰るから。帰宅部で学校に残る理由ないし」

「あ、ちょっと待って」

 通学に使っているリュックを肩にかけ、席を立とうとした烈を萌絵が呼び止める。

「今週の水曜日、烈くんは何か予定とかある?」

「いや、特にないが」

「それじゃお願いがあるんだけど、水曜日に烈くんの家に泊めてくれない?」

「は? なんで?」

「えっと、ほら、烈くんの家に遊びに行ったことないから。私、友達の家へのお泊まりコンプリートを目指しているんだよね」

「なんだ、そりゃ」

 お泊まりコンプリートなんて言葉、烈は聞いたことがない。

「ダメだ。年頃の女の子が男の家に泊まるなんて」

「真面目だねえ」

「そう、俺は真面目なんだよ。じゃあ、また明日」

「うん、またね」

 烈は萌絵と別れの挨拶を交わした後、教室を出る。

 一階の下駄箱に向かう途中で、烈はとある人物と出くわす。

「あら、剛村くん。今帰りかしら?」

 声をかけてきたのは、一人の長い黒髪の若い女性。スーツ姿だが、どこか着慣れていない。

「あ、つぼみちゃん先生」

 女性の名前は苫米地(とべまち)逢蕾花(あつは)。今日から烈のクラスに教育実習生として来た大学生である。

「こら、つぼみちゃんって呼ばない。ここにいる間は私のことは先生として扱うように」

「先生ってつけてるじゃん」

「そういうことじゃないから。それと敬語を使いなさい」

 そう言いながらも、逢蕾花は満更でもない。

 つぼみちゃんというのは、生徒達が呼ぶ逢蕾花のあだ名である。今日の顔合わせの時に、友人達からそう呼ばれていると自分から話した。彼女の名前は苗字も名前も言いづらく、烈達生徒もつぼみちゃんと呼んでいる。年齢も近く、生徒はもっぱらタメ口だ。

「だけど、驚いたわ。剛村くんのことは担任の多野先生から事前に聞いていたけど、初日に実際に目の当たりにするなんて。君は一体、どういう星の下に埋もれてきたのかしら」

「はは」

 どう答えていいかわからず、烈は曖昧な笑みを返す。逢蕾花に挨拶をし、下駄箱で靴を履き替えて真っ直ぐ帰宅した。

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