第5話
ホームルームが終わった後、烈は他の生徒と同様に学校を出る。だが、自宅に帰るわけではない。これから萌絵の殺害現場の公園に向かうのだ。
途中、昼食を買うためコンビニに立ち寄ることに。明里は日直のために遅れるらしいので、彼女の分も代わりに購入。買い物カゴに適当に弁当と飲み物を入れた烈は、とあることを思い出し、雑誌コーナーへと移動する。ラックから手に取ったのは、先ほど男子生徒達が読んでいた週刊誌。この手の本は好きではないのだが、記事の内容が気になり仕方なく購入する。会計を済ませ、殺害現場へと。
事件発生から時間が経っているため警察はすでに撤退しており、立ち入り規制は解除されている。群がっていたマスコミや動画配信者もいない。
烈は明里が来るまでここで待つことに。萌絵が横たわっていたベンチを避け、別のベンチに座る。
とりあえず時間を潰そうと、先ほど購入した週刊誌を開いた。
表紙に書いてある通り、青薔薇の貴公子の特集を組まれており、内容の半分以上がそれに割かれていた。
第二次青薔薇の貴公子事件の被害者分析から始まっていて、実名と顔写真付きで被害者一人一人を細かく説明している。年齢や学歴、仕事場を始め、家族構成や交際関係、性的嗜好などといった事件とは無関係な事柄まで掲載している。
特に萌絵は悲惨だ。未成年という理由で、学校や警察など関係各者は萌絵の個人情報を開示していない。萌絵や遺族を守るための配慮なのだが、情報の少なさが却って記事を誇張させてしまっている。友人宅によく泊まっていた萌絵を、あたかも放蕩娘のようにこき下ろしているのだ。
恐らくセンセーショナルな記事を書きたかったのだろう。真実よりも、出版社の意向が反映された記事が書かれるのはよくあることだ。
取材を行った記者は、被害者達が皆マッチングアプリを利用していたと主張し、第一次の被害者達も異性関係で様々な問題を抱えていたと書いている。
ここまででも烈の怒りを沸かせるには十分な酷い内容だったが、更に怒りを燃焼させる文面が続く。
記者は青薔薇の貴公子を、ジャック・ザ・リッパーに準えている。ジャック・ザ・リッパーは十九世紀ロンドンを恐怖に陥れた連続切り裂き魔であり、被害者は皆売春婦。
青薔薇の貴公子は乱れた世の中を憂いているのではと締め括られており、まるで被害者にも殺される非があるかのような書きっぷりなのだ。
根拠なき憶測であり、被害者や遺族達への冒涜以外のなにものでもない。
烈は出版社に乗り込んで、この記事を書いた記者の胸ぐらを掴んで問い詰めたい。
もし、自分の家族が殺されて、更に死体蹴りのような記事を書かれたら、あんたはどう思うのかと。
烈の指に力が入り、週刊誌に皺を作る。ページをめくろうとした時、上から手が伸びてきて週刊誌を取り上げた。
顔を上に向けると、明里の顔が目に入る。
「この類の本はね、全てを鵜呑みにするべきじゃないよ。売れるために過激なことも、信頼性が低いことも平気で書く。いちいち反応していたら、疲れるだけさ」
「確かにな。どうせ全部デマだろう、信じる方が間違ってる」
「ボクは全てが嘘だとは言ってない。たまに有用な情報が紛れ込んだりするからね」
「俺にはとてもそうは思えないがな」
明里の手から週刊誌を取り戻し、丸めてから無造作し通学用カバンに突っ込む。
二人は昼食を素早く食べ終え、現場捜査を開始する。
「さて、まずは事件当時の詳細を聞きたいな。烈くん、君が花咲さんを発見した時の状況を可能な限り教えてくれ」
烈は当時を思い出そうとして、頭の中に鋭い痛みが走る。悲惨な記憶の回想を脳が拒否しているのだが、その痛みをなんとか堪える。
現場である公園の石階段を登るところから話し始め、警察の事情聴取までをつぶさに話した。
「まあ、こんなもんだな。ただ、あん時は花咲以外には意識が向いていなかったが……」
「仕方ないさ。むしろ記憶が少しでもあるだけですごいよ。普通はショックから記憶が曖昧になるのに。じゃあ、次はボクの番だ。以前渡した資料にも書いてあったが、復習だと思って聞いてくれ」
萌絵が殺害されたと思わしき時刻は、深夜午後十時から午前一時の間。その時間帯に夜の散歩を日課としている人物が、犯行現場近くを歩いている女性らしきシルエットを一人見ている。他に犯人を特定するような目撃情報はなし。
「目撃情報は女だけ。男でもないし、花咲の髪はもっと短かったし、この女は特に事件に関係なさそうだな」
明里は烈の脳天に軽くチョップした。
「こら。まだ無関係とは確定していないのだから、早々に可能性を排除するべきじゃないよ。もしかしたら、この女性が事件のカギを握っているかもしれないだろ」
「はいはい。わかったよ」
烈は生返事を返す。烈としては、この目撃された女性はただの通りがかりだと思う。少し前に警察から、萌絵の体の痣は拳で殴れた可能性が高いと検死結果が公表された。女性の力で萌絵の体に青痣を作れるとは思えない。
二人は現場の捜査を開始。何か犯人に繋がる情報がないかと、文字通り草の根を分けながら探すが、何も見つからない。一時間ほど探しても、成果は一つもなし。
「俺が昨日見た刑事ドラマだと、新人刑事の主人公が鑑識では見つけられなかった証拠を見つけて、それが事件解決の糸口になったんだけどな」
烈は捜査の参考になればと、刑事ドラマや推理小説を最近漁っている。昨日はとある売れっ子男性俳優を主人公としたドラマを鑑賞した。
烈の愚痴に、「君もあのドラマを見たのかい?」と明里が反応。
「一応言っておくけど、あれはフィクション。現場は警察が徹底的に調べる。あんな分かりやすい証拠を見落とすなんて、現実ではありえない。あのシーンを見た時、思わず笑っちゃったよ。ボクから言わせれば、あれは刑事ドラマじゃないよ。俳優を売るためのプロモーションだ。見せ場を作って、きゃー、カッコいいってファンを喜ばせるための。最近はああいうのが増えた。ボクはもっと硬派なものが見たい」
昔から明里はこの類が話題になると、いつもより饒舌になる。烈はてきとうに相槌を打ちながら、証拠、犯人の痕跡の捜索を続ける。
だが、どんなに細かく探しても、犯人発見に繋がるものは見つからない。
「烈くん、捜索は打ち切ろう。これ以上探しても、意味はないようだ」
「残念ながらそうだな」
明日の午後に、烈の家で捜査の中間整理を行うことを約束し、その日の捜査は終了となった。




