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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第2章 二人で仇を討とう

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第8話

 烈と明里は萌絵の葬儀会場に少し早めに来ていた。見渡すと、萌絵のクラスメイトの他にも様々なクラス、学年の生徒が多数参加しており、改めて彼女の交友関係の広さを烈は認識した。校長や多野を始めとした教師陣がおり、柳や逢蕾花の姿も見られる。

 葬儀場の周りにはマスコミが多くいたが、参拝客の様子を映すだけでインタビューをする人間はいない。

 昨日、とある大手テレビ局が追悼番組として、萌絵の顔写真と為人を勝手に放送したのである。可愛らしい被害者のことを放送すれば、視聴率で他社を出し抜けると考えたのだろうが、放送直後からネットで大炎上。別の情報番組での謝罪にまで追い込まれた。批判は未だに止まず、他の会社は同じ轍を踏ままいと慎重になっているのだろう。

 一応配慮はしているとはいえ、勝手に撮影しているマスコミに烈は苛立つ。萌絵の見送りを邪魔するなと。彼らの存在を頭から無理やり追い出し、視界から外す。今日は萌絵を偲ぶことだけを考えよう。

「烈くん、昨日はよく眠れたかい?」

 明里の問いかけに、烈は「ああ、よく眠れた。寝れる様に頑張った」と返す。

「ふふ。確かに目のクマはだいぶ良くなっている。ただ、睡眠だけに気を配っていてはよくないよ。ほら、ネクタイ曲がっている」

 今日の二人の格好は学校の制服であり、ネクタイは黒にしている。烈達の高校はネクタイの有無を生徒が決められるが、今日の葬式に出る場合は黒のネクタイをつけろと学校から言われた。

「あれ、出る時にきちんと確認したんだけどな」

「ネクタイが少し緩んでいるんだ。君は普段からネクタイをつけないからね。時々はつけて慣れておいた方が良い」

 明里は澱みない手つきで一度烈のネクタイを解いてから、綺麗に締める。

「サンキュー」

「大切な花咲さんの葬式なんだ、きちんとした格好をしておくように」

 ネクタイから手を離した明里は「ところで知ってるかい?」と続ける。

「葬式は故人の親族などが参加するもので、お坊さんに読経などしてもらい、故人の冥福を祈る儀式。一方、告別式は友人といった故人の近しい人間が参列し、最後のお別れをする場。この二つは区別されていたが、現代では二つを連続して行い、併せて葬式と言うんだ」

「別に知りたくない豆知識だなあ」

 烈としては、悲しい行事についてあまり詳しくなりたくない。

「烈くんが何を考えているか分かるよ。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものがある」

「明里は高校生なのに達観しているな」

「頭の片隅にでもいい。あらかじめ()()()()()()を知って覚悟していれば、乗り切れる。耐えられる」

 いきなり不幸に殴られるよりは、常に身構えていた方がその悲しみを受け止めることはできる。だが、烈としてはネガティブなことではなく、なるべく楽しいことだけを考えていたい。

「今回はどうだった?」

 良くない質問だと自分で思いながらも、烈はその質問を投げかける。

 明里は少し寂しそうに笑った。

「君と同じだよ」

「……すまん。意地が悪かった」

「気にしないで。あ、開場したようだね。行こうか」

 烈は明里と共に会場へと入っていった。並んで用意された椅子に座り、間もなくして葬儀が始まる。

 喪主は萌絵の母親が務める。見た目若い女性であり、鋭い目つきからキャリアウーマンの様な印象を受ける。親族席には有名私立中学の制服を着た女の子がおり、烈が話に聞いていた萌絵の妹だと思われる。姉と同じ人懐っこそうな顔立ちが特徴だ。

 あれ、父親はいないのか?

 萌絵の父親と思わしき人物は見当たらず、烈は疑問に思ったものの、葬儀中に父親を探すのは行儀が悪いと自制。

 僧侶の読経が終わると、その後に校長が弔辞を涙ながらに読み上げる。焼香の時間になり、烈の順番が回ってくると立ち上がり、祭壇まで歩いて行く。遺族と祭壇に一礼してから、抹香を香炉の中に三回落とす。焼香の作法は昨日調べて何度か練習した。萌絵に「私のお葬式なのにお焼香のやり方も分からないの?」と笑われないためだ。満面の笑顔である萌絵の遺影と遺族に一礼してから席に戻った。

 そのまま式は粛々と進行し、僧侶が退出した後、別れ花へと。司会者から「故人様の担任の先生、クラスメイトの方々、最後のお見送りを」と促され、クラスメイト達が生花を棺の中へと置いていく。烈も花を受け取り、棺に入れようとする。その際、安らかに眠る萌絵の顔を見て、今まで強がっていたが、涙が一気に込み上げてくる。他のクラスメイトも同様。なんとか堪えながら花を置き席へと戻ると、明里が無言でハンカチを渡してきた。小さい声で「……ありがとう」と受け取る。

 出棺になり、見送ろうと烈は明里と共に席を立とうとする。そこに多野が来た。

「剛村くん、花咲さんの棺を運ぶのを手伝ってくれないか? 男手が足りないんだ」

「はい、大丈夫っす」

 他にも数名体格の良いクラスメイトが声をかけられ、多野や校長と共に棺を持ち上げる。棺の軽さに、烈はこんなに萌絵は軽いのかと驚いた。萌絵は小柄な女の子だったが、いくらなんでも軽すぎる。きっと生、魂が抜けたからだろう。

 霊柩車まで運んでから、明里と並んで火葬場に向かう車を見送る。遠ざかっていく萌絵の遺体を見て、その光景を目に焼き付ける。

 お前を殺した相手を絶対に見つけて、牢屋にぶち込んでやるからな。

 開場から出ていった霊柩車が見えなくなると、明里は「さて」と烈に振り向いた。

「約束の相手に会いに行こうか」

「昨日聞き忘れたが、誰に会うんだ?」

「行けば分かるさ」

 明里についていった先は、葬儀場から少し離れたチェーン店のファミレス。店員に案内されたボックス席で待っていると、約束の相手が来たらしく明里が顔を上げた。彼女の視線を追い、店の入り口に烈が目をやると、そこには萌絵の妹がいた。

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