第7話
「なんつーか、第二次の犯人はチグハグだなあ」
烈は率直な感想をそのまま述べる。
「烈くんの感覚は正しい。そうなんだ。犯行の手口は一貫している。だが、細部が微妙に違う。第一次の犯人と同じか分からない」
以前、神谷は萌絵を殺害した犯人が青薔薇の貴公子かどうか分からないと言っていた。おそらく警察もこれらの違いのせいで犯人像に悩んでいるのだろう。
「第一次と第二次の犯人が同じか、そこは無視しないか? 俺達が捕まえたいのは、あくまで花咲を殺した奴だ」
「その考えには賛成だ。色々考えすぎても意味がないからね。今後は花咲さんの事件にのみ焦点を当てよう」
「ああ。それで前々から疑問に思っていたんだが、何故犯人は青い薔薇のコサージュを被害者に供えるんだ。何か意味でもあるのか?」
「君は青い薔薇の花言葉を知っているかい?」
「知らん」
「まあ、そうだろうね。君は花に興味がないからね。だが、メジャーな花言葉は覚えておいた方がいい。そういった男性は女性から見て好印象だ。それに君は将来ボクに百八本の赤い薔薇を送るんだから」
後半は何を言っているのか、烈には全く分からなかったが、「お、おう……」と曖昧な返事でとりあえず話を先に進めることに。
「それで青い薔薇の花言葉はなんなんだ? わざわざ言及するぐらいだから、何か意味があるんだろ?」
「花言葉は神の祝福、奇跡、夢の実現。元々青い薔薇は自然界には存在せず、人間の弛まぬ努力で人工的に作り出された。花言葉は誕生の経緯を踏まえてのもの」
「神の祝福、奇跡ねえ」
烈は資料の中から青い薔薇のコサージュが映った写真を拾い上げる。
「遺体に置いてあったのは、コサージュ、偽物だろ。偽物の神の祝福なんて、なんか皮肉っぽいなあ」
「単に生花が用意できなかっただけかもしれないが、何かメッセージ性があるのは確実だろう」
「そして、それが犯行動機の可能性でもある。だけど、薔薇だけでは動機を読み取れない。もし、俺達に解明できたら、警察もとっくに分かっているはずだ」
「そうだね。正直、今のボクらが持っている情報だけでは、犯人に辿り着くことはできない。花咲さんが殺害された現場に行って捜査を行いたいが、警察が現場検証中だ」
烈は少し想像してみる。自分は神谷や三浦といった警察の人間と顔見知りだ。仲もそこそこいい。クラスメイトの仇を討ちたいからと、警察の捜査に自分達を参加させてほしいと言ったらどうなる?
絶対断られるし、危険なことは止めろと怒られるよな。
部外者が警察と一緒に捜査をし、事件の真相を暴くというのはあくまでフィクション。小説やドラマの中だけだ。現実ではありえない。
「なあ、夜中に忍び込むっていうのは……」
「駄目だよ。変に素人が歩き回って、警察の邪魔をするわけにはいかない。それに真っ暗な夜中に行っても得られるものは少ないだろう」
「そうだなあ」
「大人しく規制が解かれるのを待つしかないさ」
「だけど、これ以上は捜査を進められないってのは、もどかしいな」
「そのことなら心配しなくてもいい。明日、とある人物と話をする約束を取り付けた。彼女から何か重要な重要を聞けるはず」
「明日って、花咲の葬式だよな?」
「もちろん、出るよ。友達として当たり前。葬式の後に、その人物と会う約束をしている」
「そうか。分かった」
今日の捜査はこれで終わりだ。続きは、明里が約束を取り付けたという人物と会ってからである。
「そういえば、学校が明里の動向を気にしているらしい。今回の事件に首を突っ込んでいないかと」
「あはは。だろうね」
「自覚はあるのか……。幼馴染の俺も監視対象だ。特に二年の学年主任の柳が気にしているみたいでさ。事態の悪化を避けたいんだと。全校集会でも言っていてが、学校の評判が下がるのが嫌なんだろうな」
「柳先生か。あの人の場合は学校の評判の心配よりも、別のものだろう」
「別のもの?」
「うん。あの人は他者を自身のコントロール下に置こうとする傾向がある。彼は常に生徒に対して高圧的だろう。あれは厳しいのではなくて、自分の言うことを聞かせることを目的としているからだ」
柳の言動を振り返ってみると、その通りだ。烈が以前、お前も犯罪に関わっているのではと言われた時、ムッときた烈は「そんな訳ないでしょう。もしそうなら、今頃俺も警察に捕まっているはず。少し考えれば分かるでしょう」と言い返した。その際に柳は激昂し、周囲の教師が制止するほどの怒声を浴びせてきた。露骨に反抗的な態度を取った烈に怒ったのかと当時は思ったが、よくよく考えてみれば柳の怒りは過剰だった。
そのエピソードを明里に話すと、彼女は「烈くんも災難だったな!」と笑い飛ばした。
「生徒に言い返されて、プライドが傷ついたのだろう。どうも彼は女性や子供を見下している節がある。だから、奥さんに逃げられたんだ」
「逃げられた? 離婚されたってことか?」
「恐らくね。柳先生は何かとつけて、家族自慢をしていただろ? 嫁は家事が得意だなの、息子に英才教育を施しているだの。結婚したばかりの君の担任である多野先生にも、上から目線でアドバイスをしていた。だが、去年の暮れからそういったことも鳴りを顰め、結婚指輪も今は外している」
「はえー」
よく他人を見ているもんだと、烈は感心する。日常生活において、明里が常に他人を注意深く観察しているという証左だ。
「さて」と明里は床に広げた資料を片付け始める。
「話すべきことは話したし、ボクはそろそろお暇しようかね。烈くん、今日は早めに寝なさい。今日のような酷い顔で彼女の葬式には出ないように」
「分かってるよ」
烈は明里を玄関まで見送り、別れの挨拶を交わした。




