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明日見明里は退屈が嫌い  作者: 河野守
第2章 二人で仇を討とう

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第6話

「……ん? あ、寝てた!」

 烈が跳ね起きて時計を確認すると、一時間ほど寝ていたことがわかった。寝落ちに罪悪感を覚えるも、体が少し軽くなったように感じる。自分が思っていたよりも、疲労が蓄積していたようだ。たった一時間の睡眠でも、身体には必要だったらしい。

「おい、明里、起きろ! 打ち合わせを再開するぞ」

 ベッドの上の明里に近づき、彼女の肩を強めに揺らす。起きた明里は口元に手を当て、上品に欠伸。

「ふあああ。よく寝た。おはよう、烈くん」

 明里はベッドの上で半身を起こし、自身の服や体を何やら念入りに確認している。そして、不満げな目を烈に向けてきた。

「……これはどういうことだい?」

「どういうことって何が?」

 明らかに不機嫌そうな明里の様子に、烈は自分が何かやらかしたのかと不安になる。

「君は、ボクが寝ている間に何をしていたんだ?」

「俺も寝ていただけだが」

「寝ていた、だけ?」

「そうだけど」

「ほうほう、なるほどね……」

 明里は一拍間を置いた後、烈の枕を拳で何度も叩く。

「なんでボクに何もしないんだ! この! 可愛い! 幼馴染の! 美少女が! 無防備に寝ていたんだぞ! 何かしらのエッチな悪戯はするべきだろう! 君はガタイが大きいだけの小心者なのか! 情けないぞ!」

「……」

 なんと理不尽な罵倒であろうか。

 烈は明里の身勝手極まりない言動を受け額に青筋を立てるも、自身に冷静になるように言い聞かせる。

 ここでコイツにまともに付き合っても、時間を無駄にするだけだ。ここはいつも通りの手でいこう。

 伊達に明里と十年以上付き合っているわけじゃない。このようなケースの対処方法は知っている。

「……別にお前に魅力がないと思っているわけじゃない。お前は俺にとって大事な存在だから、変なことをしなかっただけだ」

「……ふ―ん、そうなのかい? なら、許してあげよう。……えへへ」

 目に見えて上機嫌になった明里。この幼馴染は、昔から女性として褒めてやると上機嫌になる。事件大好きな変人でも、根っこは女の子ということだろう。

「では、休憩もしたし、再開しようか」

「ああ。その前に、コーヒーでも飲まないか。寝起きの頭をすっきりさせたい」

「賛成」

 烈は一階のリビングに降りて、二人分のインスタントコーヒーを淹れて部屋に戻る。明里にマグカップを渡すと、彼女はコーヒーを啜りながら新しい資料を取り出す。

「さっきは青薔薇の貴公子の大まかな概要を話したね。ここからはより詳細な話をしていこう。では、烈くんに質問の続きだ。八年前と今回の一連の事件。犯人は同一人物か? イエスかノー」

「イエスだろ」

「何故?」

「何故って、手口が同じだ。それに八年前の事件の真犯人はまだ捕まっていない」

「ブブー、不正解だ」

 明里は胸の前で腕を交差してバツ印を作る。

「じゃあ、違う犯人ってことか?」

「ブブー、それも不正解。答えはね、分からない、だ」

「分からない? どういうことだ? てか、イエスかノーかって訊いておいて、分からないって。頓知かよ」

「八年前と今回で手口に差異があるってことさ。そうだね、分かりやすいように八年前を第一次、今回を第二次と区別しようか。この二つには、小さいが決定的な違いがある。

 もっと資料を細かく見てくれ」

 明里はそう言うと、第一次と第二次の事件が載った新聞紙のスクラップを烈の前に置く。

「決定的な違いなんてあるのか?」

 見せられた記事をゆっくりと読んで確認。

 そして、明里の言う決定的な違いを見つけた。

「……被害者の金品が奪われてる?」

 烈の回答に、「その通り」と明里が指を鳴らす。

「第一次の時の犯人は金品には一切手をつけなかった。一方の第二次の事件では被害者の財布や貴金属、スマートフォンと金目の物は全て奪われている。それと違いがもう一つ。それは何かな?」

「ちょっと待ってくれ。えっと……。被害者の肉体の暴行の有無、か?」

「正解。第一次はなるべく被害者の体を傷つけないようにしていた。だが、第二次で花咲さんを含め、被害者の体中に暴行の痕跡があった。顔の痣は化粧で隠されていたようだけどね」

 烈は萌絵の遺体の姿を思い出す。言われてみれば、萌絵の顔や体には殴られたような青痣があった。

「こういう言い方は変かもしれないが、第一次の犯人は()()()。そして、第二次の犯人は()()()なんだ」

「紳士的、ねえ……」

 殺人を犯している人間のどこが紳士的なのかと、烈は思う。

「単に犯人の心情や状況が変わっただけじゃないのか? 例えば今は金に困っていて、殺人のついでに被害者から盗んでいるんじゃ?」

「その可能性はありうる。だけど、ボク個人としてはそう思えない」

「なんで?」

「第一次の時の犯人は被害者に対し、紳士的な対応を徹底していた。過去のシリアルキラー達を見ると、犯人はどんな状況でも自分の拘りを貫いている。もちろん、絶対ではない。だが、ほとんどの人間は最後まで一貫していた」

 シリアルキラーのことは烈にはよく分からないが、明里が言うのだからそうなのだろう。

「じゃあ、第二次の犯人は強盗殺人が本当の目的で、青薔薇の貴公子の事件に見せかけているのか? 警察の捜査を撹乱するために」

「それも断言できない。仮にそうだったとしても、第二次の、一つ目の事件が起きた時に警察は犯人を絶対に逮捕すると宣言した。もし単なる模倣犯の場合、そこで手口の真似をやめるはずだ。警察を刺激せず、逮捕されるリスクをなるべく減らすためにね」

「そりゃそうか」

 そもそも論として、青薔薇の貴公子事件に見せかける必要はない。捕まりたくないなら、死体が誰にも見られないように処分するべきなのだ。

 分からねーことだらけだなあ。

 烈は混乱しつつある頭を掻きむしった。

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