謝罪
目が覚めた時、まず感じたのは体の痛みだった。腕も足も鉛のように重く、全身が怠くて動けない。頭の中は霞がかかったようにぼんやりとしていたが、すぐに気づいた。自分がどこかの天幕の中にいることを。
「……ここは?」
呟くような声が漏れると、それに答える声が聞こえた。
「気が付いたか。」
ジェイドの声だ。振り向こうとしたが首を動かすだけで鋭い痛みが走る。すると、すぐ隣に彼がしゃがみ込んできた。心配そうな目でこちらを見下ろしている。
「無理に動くな。まだ休め。」
「……どうして、ここに?」
「お前が皇帝を追いかけた後、倒れているところをみんなで探し回ったんだよ。」
その言葉に胸が苦しくなった。無我夢中で皇帝を追いかけたことが脳裏に蘇る。彼を捕らえることしか頭になく、周囲のことなど何も考えていなかった。
「……ごめん。」
自然とその言葉が口を突いて出た。声は震えていた。
「そう言うな。」
ジェイドの言葉は優しかったが、その奥には微かな怒りが含まれているようにも思えた。
「でも、お前が無事で本当に良かったよ……。けど、次からは俺たちを置いていくな。お前が倒れる姿なんてもう見たくない。」
「……ありがとう。」
彼の言葉が胸に刺さる。感謝の気持ちを口にしたものの、同時に自分への情けなさが心を締め付けた。
***
ジェイドに支えられながら天幕の外に出ると、朝の光が戦場跡の荒野を照らしていた。
外では特務隊の仲間たちが集まっていた。天幕の周りに立つ彼らの顔には、それぞれ疲労と安堵、そしてわずかな困惑の色が浮かんでいた。
「目が覚めたか、ベアトリーチェ」
真っ先に声をかけてきたのはハンスだった。特務隊の隊長である彼は、端正な顔立ちに冷静な目を宿し、どんなときも規律を重んじる姿勢が仲間から信頼を集めている。
「……みんな、ごめんなさい。」
わたしは立ち止まり、深々と頭を下げた。その場にいた全員の視線が集まるのを感じたが、それを気にせず言葉を続ける。
「昨日は冷静さを失って、無茶な行動をしてしまいました。隊を危険に晒すようなことをして、本当に申し訳ありません。」
沈黙が流れる。その重さに息苦しさを覚え始めた頃、ハンスが低い声で口を開いた。
「お前が反省しているならそれでいい。ただ、二度とやるな。隊の行動を乱すことは許さない。」
その言葉にわたしはうなずくしかなかった。
「まったく、どれだけ探し回ったと思ってるんだよ!」
苛立ちを隠さない声を上げたのはリックだ。副官を務める彼は飄々とした性格ながら、いざという時には冷静な指示を出せる頼れる存在だ。いつもの軽口も、この時ばかりは真剣さが滲んでいた。
「でもさ、無事でよかったよ、ベアトリーチェ。これで死んでたら、俺たちが怒る暇もなかったぞ。」
冗談めかして笑ったのはガレルド。筋骨隆々の体躯と豪快な笑い声が特徴の彼は、特務隊きっての戦闘狂だ。敵を前にすると嬉々として突撃する姿が、仲間たちに一種の安心感を与えている。
「まあまあ、これで無事だったんですし、一件落着ってことで良くないですか?」
和やかに声をかけてくれたのはティナ。医療担当として隊の負傷者を手当てし続けてきた彼女は、いつも穏やかな微笑みを絶やさない癒し系の存在だ。
「いや、俺はそう簡単に済ませないぞ。お前が暴走癖あるなら特製の薬でも作ってやろうか?」
錬金術師のダグラスは、いつも通りの毒舌を交えながら腕を組む。顔には常に不機嫌さが漂っているが、その手から生み出される薬や爆薬は特務隊にとって欠かせないものだ。
「やれやれ、ハンスも大変だな。これ以上問題児が増えると困るぞ。」
隊の後方支援を担当するエリクが肩をすくめて笑った。弓術と戦術眼に優れた彼は、冷静な判断力でしばしば隊のピンチを救っている。
「まあ、死ななかっただけ幸運だろう。次は気をつけろよ。」
寡黙な声で最後に言ったのはラウル。高精度な弓矢の狙撃手である彼は、無駄な言葉を嫌うが、的確な一言で場を締める存在だった。
「……みんな、本当にごめんなさい。そして、ありがとう。」
わたしの謝罪に、仲間たちはそれぞれ軽く笑ったり、頷いたりしてくれた。その瞬間、胸のつかえが少し取れた気がした。この人たちがいる限り、わたしはまだやり直せる。