5年から金魚まで
5年前、コスモス揺れる秋の文化祭実行委員になった。
古い校舎の暖炉がある空き教室に実行委員会本部が設けられ、そこで後夜祭には付き合い出す彼に出会う。
期間中は一緒の事が多く、たまごサンドをきっかけに仲良くなる。
「たまごサラダかポテトサラダに刻んだピクルスを入れて挟んだら絶対ウマいと思うんだけど」
「分かる! 食パンじゃなくてバケットでも美味しそうだよね」
仲が深まり一般的なデートをして、高校を卒業しても別れず、ニットの帽子をかぶって温泉に行ったりもした。
雪山を見上げる麓の温泉地で、のんびり部屋で和菓子を食べて過ごし、貸し切り風呂に浸かり肩を並べて三日月を見上げた。
「きれいなんだけど!」
「何でキレ気味? でも昔クレイアニメの影響でチーズだって思ってた時期があったっけ」
付き合って小さな喧嘩はしたものの幸い別れる様な喧嘩はしなかった。
「だから! 怖くないから先行って!」
「いいや! 怖がる可愛い所を見たいから先どうぞ!」
「怖くないんだから見られないってば! さぁ!」
小学生でも入れるホラーハウスで揉めた後は口をきかなかったけれど、このまま何となく結婚するのだと思っていた。
そんな時、不意に彼が私を呼び間違える。
「ちょっと『みぃちゃん』……て、誰?」
「……母親?」
「は? 『かずえ』でしょ」
一字もかかって無い上に疑問形の返事に追求すると。
「友達の名前……じゃない、みぃちゃんは実家で飼いだした猫だよ」
「へぇ、そう」
睨んだ事もあり、明らかに動揺して苦笑いを浮かべる彼。
そんな苦し紛れで疑いが晴れるはずもなく、就寝中にスマホの生体認証を解除。
パスワードは彼が好きなゲーム、何とかクエスト関連のワードを片っ端から入力してロックをこじ開けた。
しかし、パスワードに怒りが込み上げる。
「何で私の誕生日とかじゃないわけ?! 彼女は私でしょ! それくらいしてよ!」
残念な事に浮気の疑いが見つかり、言い逃れ対策で浮気現場に乗り込む。
彼は目を泳がして言葉を探すけれど、抑えきれなかった私は、金魚柄のパンイチ彼氏の背中を感情のままに蹴り飛ばした。
「この浮気野郎!」