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殴り合いってやつ

 敵の中に眼鏡をかけたやつはいない。サングラスはいる。

 さっさとしないと、敵の襲撃が迫っているのかもしないのだ。

 ……死体が増えるからいいことか?


「あ~、そこの君。そろそろやめてくれないか」


 まるで早朝の通勤路に寝転がった酔いつぶれの大学生に、あきれを込めた声をかける中年のようだった。

 けれど、ここにいるのは何度も死んでは死にきれずリポップしては全裸で人を殺す僕だけだ。


「普通のナイフさばきじゃないよね。どっかの暗殺者でも雇われたかなって思ったんだけど、それにしては派手にやり過ぎだ。ああ、今攻めてる町のマフィアの手先かな? 殺し屋さん」


 僕のターゲットはこの男ではない。しかし、話し方と登場の仕方的にこのマフィアの幹部なのだろうか。襲い掛かってきていたマフィアの構成員もいつの間にか退避している。


 この状況。僕が待つ意味はない。


 手に持ったナイフに力を込める。

 地面を蹴って踏み出した。

 片目を見開き、面食らった表情が映る。


「まじかこいつっ!?」


 首と胸の傷口から血が噴き出す。

 力なく、一言残して倒れた。


「○○○でけぇ」


 何を言っているんだこいつは。


 ナイフに付いた血をふき取り、死体を確認しようと下を見る。


「ふざけたモノぶら下げやがって!!」


 横から頭を押さえつけられ、そのまま地面に押し付けられる。


 鼻から変な音がし、頬から温かい液体が流れる。


 そこに在るはずの死体はなく、声の主は確かに死んだはずの男だった。


 まるで、()()()()()()かのように立っている。

 全裸で。


「なんて不格好な能力なんだ。しかしかなり強い」


 男は僕の方を全く見ずに足を振り上げ、つま先を僕の顔に突き刺した。その反動で僕の首は勢い良く回り、もげる。

 到底人に出せるような力ではなかったように感じたが、世の中鍛えればこれくらいのことはできるのかもしれない。


 そんなことを考えているうちに、僕はまた死に損ない、リポップした。


「お前ひとりで乗り込んできたわけだよな? これじゃ決着つかねぇよ」


 全裸の男が二人向かい合っていた。

 傍から見れば地獄絵図に違いない。


 ナイフを拾う僕を男は止めようとしない。


「目的は、俺の暗殺か? 組織の壊滅か? 能力的に前者な気はするが」


 男は無防備に立ち、問いかけてくる。

 隙だらけの構えだが……どうやらさっきの様子からも、僕と同じ体質だろう。ナイフで刺し殺したところで無駄だ。


「僕の目的はこの男を殺すことだ」


 手榴弾を投げた物陰まで戻り、血と砂でボロボロになったターゲットの写真を拾い、見せる。


「……なぜ俺ではなくそいつを狙う?」

「こいつが僕の町の死体を減らす計画を立てた首謀者だと聞いたからだ」

「その情報は間違いだ。そいつは俺の部下。だから今からターゲットは俺だね」


 そんなわけはない。今まで【探偵屋】の情報に間違いはなかった。

 つまり、眼鏡を殺せば問題は解決するということは変わらない。


「僕はあなたを殺す理由はない。この眼鏡をかけた男を殺すことで問題は解決する」


 あいては少し悩んだように上を見て、やがてもう一度こちらに向き直った。


「……分かった。ついてこい」


 不毛な全裸の男二人の殴り合いは一時休戦した。

 互いに無言で地面に落ちた服を着て、歩き始めた。




 ◇



 全ての攻勢を裏から操るものが一人いた。


 まあ諸君も察しはついていると思うが、風来坊気取りの【探偵屋】を名乗る女だ。


 彼女が味方に付いているいる側のマフィアはグレイスファミリー。

 そのマフィアを襲撃している敵はトラウト一家。


 この構図事態は【探偵屋】が作り出したものではないが、火種をきっかけに戦火を煽り、戦局を支配しているのは彼女だ。


 彼女の能力は【探偵屋】という名称に奇縁していない。

 もっと卑劣で残酷な能力なのだ。


 なぜ、マフィアの名前がここまで出てこなかったのか、なぜ彼らはあれを知らなかったのか。

 そういった謎は彼女がわざわざ作り出したものなのだ。


 なぜ彼女がそんな面倒くさいことをしているかというと、理由はしょうもないことが二つくらいと、大切なものが一つある。


 一つは趣味、一つはそんな彼女にも敵がいるからだ。


 ゆくゆくその敵もどっかのどっかにちらっとふらっと登場するかもしれない。


「それで、君は何をしに来たのかな?」


 今、【探偵屋】の前には一人の覆面の人物が立ちふさがっている。

 覆面には見ていると目がおかしくなりそうな円が何重にも刻まれている。


「ふふっ、私相手に幻覚勝負かな?」


 彼女の視界には覆面の人物がボヤケ、次第に分裂していた。それは横にではなく、万華鏡を覗いたときの光景に似ている。

 彼女はその光景を前に、胸元から取り出した煙草を咥え、火をつけた。

 覆面の人物は微動だにせず、音一つ立てていない。


【探偵屋】が吐き出した煙草の煙が広がっていき、彼女の視界を埋め尽くしていく。


「■■神」


 煙が不自然に広がっていく。

 彼女を中心に万華鏡のように見えている範囲を全て煙で包み込み、染み込んでいく。


()()()()()()()()


 煙のようにその光景は元の暗闇に戻った。

 背後には火が燃え盛っている。

 彼女の前には一輪の花が落ちていた。


「やるじゃないか」


 彼女は少しだけ驚いた顔で花に煙を吹きかけ、ソレをかき消した。

 何事もなかったように歩き始めた。

 彼女は心底楽しそうな顔を浮かべ、始まった男二人の戦いを眺めていた。


「うひひ」










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