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ただの会話日和

 こんな澄み渡った空。

 室内でも感じる強い陽射し。


「絶対に外出たくねぇ」

「なんでだよ! こんなに良い運動日和はねぇだろ」


 こういう光合成できますよ系植物機能持ち運動大好きゴリラは苦手だ。


 まず、席が前後というだけで僕のつぶやきに大声で反応してくるところが無理。

 返事は街頭演説のように大きく、周囲の目を引き付ける。


 もちろん、僕は反応しない。

 光合成系植物ゴリラ・ゴリラからすれば無視されたと感じるかもしれないが、僕からしたら独り言にアレクサが返事をしてきやがったくらいの感覚だ。驚きはあれど、うれしさなど一切なく、恥ずかしい。


「日焼けとかマジ無理なんですけど~」


 まーた。


 次はゴリラ(光合成可)とは波長が合わない。しかし、クラス内でも発言権は強く、分類としては一応人間に属しているだけのミラーボール。鬱陶しいことこの上ない。


 ミラーボールの下でゴリラがダンスしている様子を想像してほしい。

 ミラーボールの光でゴリラが光合成し、相乗効果のようにミラーボールは光を増すのだ。


 ダンスホール。

 ゲームセンター。

 サファリパーク。


 これら三つのハイブリッドがこのクラスなのだ。


 しかし、光が強ければ強いほど影も濃くなる。


 僕なんてまだまだ最弱、影の中では弾きものなのだ。


「うるせえ。くそビッチ」


 ぼそっと、しかししっかりとした単語が聞こえた。ミラーボールに「びっち」というとは、なんて神経をしているんだ。


「おい! 言っていいことと悪いことがあるだろうがメガネ!」


「びっち」という圧倒的悪口ワードを発したのは学年トップの秀才で眼鏡をかけた男子生徒だ。

 頭脳派気取りのイモ野郎だと思っていたが、鋭いナイフでミラーボールの表面を傷つけていく、影の中の特攻隊長だ。


「五月蠅い」

「っん~~!! 絞めてやるから昼休み屋上で待ってろっ!」


 ミラーボールが停電し、教室から去っていく。いかにも負け犬らしい捨て台詞を吐くところだけ好感を持てる。


「おいおい、いくらお前らの仲とはいえ、言いすぎなんじゃないのか?」

「口出しするな」


 光合成するための光源を失ったゴリラに対しても完全にシャットダウンだ。


 静まり返ったダンスホールの扉が開く。


「みなさん! 生徒会です。アンケートにご協力をお願いいたします」


 モブが入ってきて、プリントを配り始める。

 漫画の中の生徒会は権力を持っているが、この学校ではモブだ。個性も特にない。


 いじめに関するアンケートと書いてある。


 このクラスに入れられたことが学校からのいじめみたいなものだ。

 だが、僕だからこそこの環境になんとか耐えられているのだ。


 しかし、傍から見ればどうなのだろうか。

 このクラスは少しにぎやかなくらいで、おかしなところなど何もないのだろうか。


「君、いじめられていたら正直に書くんだぞ」


 君もだ。といいながら生徒会の生徒が教室を周回している。


 ◇


 全能感

 それを感じる姿が他人から見れば滑稽この上ないということを、僕は知っている。



 けれど、僕がそれに火たる瞬間を覚えたまま、この屋敷から生きてでることができる人はいない。


 僕の脳が全能感に支配されるのはれっきとした理由がある。


「死ね!!」


 脳天に銃弾がめり込む。

 視界が血に染められる前に、ブラックアウトする。

 脳が破壊されたのか、無意識に目を閉じたのかは僕には分からない。


 けれど、その瞬き一つで僕の座標はズレている。


「くそっ化け物め!」


 相手の悲鳴に呼応するように派手な笑い声が廊下に響き渡る。それはまるで悪魔のような笑い方で、まるで、自分ではないようだった。


 体は冷静に動く。

 さっき脳天を銃撃した犯人をナイフで刺し、その死体を盾に襲ってくる銃弾を防ぐ。

 死体の陰で悠々と手榴弾を準備し、あざ笑うように手榴弾を抱えて敵軍に飛び込んだ。



 ◇



「いじめ? 僕がですか?」

「そうだ。ある生徒がアンケートで教えてくれたんだ」


 その男子生徒は何も心当たりがなかった。

 しかし友達もおらず、成績が優秀というわけでもない。部活にも委員会にも所属していないので、優等生というわけではなかった。むしろ教師側の中では問題児と捉えられていた。


「その人の勘違いですよ」


 教師もその回答を聞いて納得するわけにはいかない。この手の問答で初めから正直に答える生徒などほぼいないのだ。なぜかこの国ではいじめられることは恥ずかしいことだという認識が広まっている。


「わかった。限界が来る前にすぐに言うんだぞ。恥ずかしいことなんかじゃないんだからな」

「……」


 教師も今日で何か進展があるとは思っていなかった。

 授業準備やテストの採点も残っている。時計は針を刻々と進む。早く職員室に戻りたいのだ。


 しかし、問題の生徒は何か言いたげに黙ってしまった。

 もしかしたら、いじめが考えていたよりも深刻で、今覚悟を決めているのかもしれない。

 もしそうであれば、応援しよう。これも勇気を振り絞る貴重な機会なのだ。成長できる機会は人それぞれだが、どんな経験も今後の糧になる。


「先生、僕学校やめようかなって考えてるんです」


 ◇


「ちっ、しくじりやがったのか」


 男は一人しかいない書斎で声を上げた。

 派手な物音と振動がここまで伝わってくる。


 あの眼鏡に何を言ってやろうか。


 そう考えながら、腰を上げた。








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