第7部分 糖首領の胸算用1 中国対美国戦改
第7部分 糖首領の胸算用1 中国対美国戦改
戦闘力の比較は難しい。
様々な動画や各種サイトでは例えば中国戦力、特に海軍や空軍とミサイルについて語られることは多い。
まあよくあるパターンで言うなら、
・ミサイルの種類とそのスペック上の性能
・海軍の船舶数や総トン数
・航空母艦数やトン数、飛行機の積載数と武装
・保有軍用機(特に戦闘機、さらにステルス戦闘機)数とスペック
・保有潜水艦の種別(原子力またはディーゼル)、搭載ミサイルや魚雷数等の武装
このあたりまではよく見る項目であって、しかも単純に数で比較も理解もしやすく、素人ウケもする。いちいちの名称や性能はそういうサイトや動画でさんざん扱われているがゆえに、ここでは掲載を省略しようと思う。
ただしそれぞれの武器のスペックには
・故意に性能を過少に見せかけているもの
・故意に性能を過大に見せかけ、または意図的にリークしているもの
・情報戦や偵察によって暴露されてしまったもの(しかし情報操作の可能性もあり)
・艦船や飛行機などの稼働率
・艦船や飛行機などを扱う将兵の練度
などの未知数のファクターが隠れている。
また「運」や「確率」が潜んでいることも確実だが、これを予測したり測定することは不可能である。
また
・軍の構成と権限、基本的な指揮官の質や兵の資質、士気
・地上や海中の通信網の破壊や妨害(インターネット通信を含む)
・電子戦における戦術と練度(インターネット通信等の無線回線を含む)
・宇宙戦における戦術と練度(インターネット通信衛星等の破壊や妨害を含む)
・サイバー戦
・心理戦
・情報収集後の選択と解釈、タイミング
などはスペックや性能を数字的に表現することは至難であると言えるだろう。
また正規軍以外にも、例えば「アノニマス」のようなハッカー的集団を味方に付けることや、北朝鮮のような他国の軍関係者や情報部の密やかな介入なども、もしかしたら情報戦の行方を左右するファクターに成り得るだろう。
さて…
こうして不確定要素に満ち溢れた軍事力比較にどれだけの意義があるかは分からないが、それでも例えば中国対美国の中でこれらを語ることはできるだろう。
さらに言えば場所を南シナ海や東シナ海に限定する限り「地の利」というものを考慮する必要がある。
美国は遠く、中国は近い。これは補給線の長さに直結する。
確かに両大国とも化石燃料資源をある程度は自給できるが、太平洋は広いので、中国の利は明らかである。中国は最初にちょっかいを出したあとは情報戦や宇宙戦を仕掛けながら待ち受けるだけで良い。逆にアメリカはインド洋を制圧できなければ、とてつもなく不利になってしまうだろう。
この場合、アメリカは第7艦隊をはじめとする幾つかの任務部隊が動くだろうが、果たして思い通りに動けるものなのだろうか。
アメリカ戦隊は仮にミサイルで狙われたとしてもこれを撃退する手段を持つとされている。原子力空母の周囲をイージスシステムを装備した原子力艦隊で護衛させていれば、「囮」を含めた多数のミサイルで飽和攻撃された場合でも、装備したイージスシステムの「艦(または地)対空ミサイル」で迎撃するというのだが…
イージスはギリシア神話中では「無敵の盾」を意味している。アメリカ艦隊は、おそらく数本の敵ミサイルからは逃れられるだろう。
しかしイージスシステムがあるからと言って、多数の敵ミサイルから味方艦船を護れるワケではない。多数のミサイルの中から脅威度が高いものを選り分けて攻撃することはできるというが、本物の脅威か囮かを識別することはできない。そもそも「飽和攻撃」とは、護衛システムが対応しきれないほど多数のミサイルで同時に攻撃を掛けることを指すワケで… しかも迎撃は大変難易度が高い技術であり、確率的に撃ち漏らしが出るのは想定の範囲内であることはウクライナ戦でもはっきりしてきたことだ。
無論設計上は迎撃失敗、つまり撃ち漏らしミサイルが艦船を直撃する寸前で撃墜する通称バルカンファランクスなる「CIWS(近接防御システム)」を持つため「大丈夫」ということになっているが、その効果は実戦で証明されたことはないだけに「絶対」と断言できるものだろうか。特にいわゆる「極超音速ミサイル」、中国名で言う「東風」に対応できるかどうかはわからない。理由はCIWSが構想されたころに極超音速ミサイルは存在しなかったからである。
無論システムともども「高性能20mm機関砲ファランクス ブロック 0 バージョン」へのアップグレードがなされていることだろうが、「バルカン」の名が示すとおり所詮は回転式の6銃身の回転式機関銃なのである。20mmの弾丸直径では炸裂弾であっても近接信管は使えないので、直撃を狙った分速3000発の弾幕ということになるが、さてCIWSのレーダーと射撃管制コンピュータそして砲身の動作が、マッハ5を越え上下左右へと不規則に動くミサイルの動きに対応できるかどうか…
スペックによれば最大射程約11キロメートル、有効射程約1800メートル、準備弾数はドラム内に980発となっているが、これで不安を覚えないヒトがいるだろうか。
なぜかって?
速度がおおむねマッハ5を越えるのが極超音速ミサイルの基準とされる。
地表での音速を 340m/秒 とすると、マッハ5は1700m/秒であり、これを時速に換算すると6120(km/h)に相当する。
秒速1700mのミサイルが11km、つまり11000m進むのに何秒かかるだろうか。
11000 / 1700 = 6.47秒
しかしこれは最大射程での計算だ。有効射程ならどうなるだろうか。
秒速1700mのミサイルが1800m進むのにかかる時間は…
1800 / 1700 = 1.059秒
暗算でも1秒とほんのちょっとであることは分かるだろう。
相手は囮のこともあるだろうが、弾頭を持ったミサイルにビンゴすることもあるとするとその場での爆月や破片の落下なども考慮すると、船舶のかなり手前で撃ち落としたいものではないだろうか。
しかも… 先に書いたように、このミサイルはまっしぐらに飛翔するものばかりではなく、一旦上空にあがってから逆落としに落下してくるものなど、いくつものパターンがあるというから性質が悪いのである。
ちなみに分速3000発だから、連射を続ければ
980 / 3000 ≒ 0.32秒 で、ドラム内の弾丸を打ち尽くす計算となるのだ。
また見ての通り、これらの計算はミサイルの最低速度(マッハ5)、近接防御システムCIWSの最大射程や有効射程を用いた計算なのである。
正直に感想を言えば… 不安! このひとことしかあるまい。
しかしこればかりは訓練ではなく、実戦で「とびきり高価な原子力艦隊」を運用する以外に確かめる方法はあるまい。特に原子力空母は「まるごと動く町」のようなものであり、1発でもミサイルや魚雷を喰らった場合の損害と心理的影響は計り知れない。
もっとも中国側の東風ミサイルが世上一般に知られているスペック通りの性能を出せるかどうかも怪しいものだし、もしかしてそれ以上の性能を持つ可能性も微レ存… まあチャイナスペックゆえ無いだろうが…
ただし1996年からは米軍とイスラエル軍との共同で「戦術高エネルギーレーザー」つまりレーザービームで誘導爆弾やミサイル、さらに航空機に至るまでを収束させたビームの熱で破壊する試みが始まっている。いくつかは頼もしい実験成果を出してはいるが、レーザーは「アバウト光」であり、悪天候などで弱点を晒す可能性が高い。またバリアがわりに「反射」などの対策を取られた場合は、どうなるのか分からない。米軍の艦船上の装備を見る限りまだレーザーがCIWSを補完する体制になっていないのは明らかである。技術が盗まれたり、定年で退職した方や転職した方、さらにはヘッドハンティング等で技術は人材が流失…というか盗難に遭わないよう万全の処置を取りながら、ぜひ速やかに開発を進めていただきたいのものだ。




