98話 ー嘲笑ー
「簡単に言えば魔道具に声を与えることができる、かな」
「?」
「まあ分からないよね。説明するよりやってみたほうが早いから左手を机の上において待ってて、いま道具を用意するから」
立ち上がって部屋の奥へと向かっていったユリア先生の残り香が僕の花にも届いた。けっして強すぎるわけじゃないんだけどそれでいて印象的に香る甘い匂い。これはいったい何の匂いなんだろう。
「お待たせー」
先生が持ってきたのは人の頭くらいの大きさの透明な丸い石のようなものだった。
「これを台座の上においてっと。さあ準備できたよ、これから私のスキルでこのいかにも呪具然とした魔道具がなんなのか丸裸にしてしまうよ。さあ心の準備はいい?」
「いったいどういう心の準備をすればいいんですか?」
「手を動かさないでね。狙いがずれたら体がボロボロ崩れ落ちていくからね」
「いやちょっと待ってくださいユリア先生」
「あーだめ!もう始まってるから動かないで」
「ふわっ!」
サブレさんの体が緊張で固まったのが分かった。
「さあ私にその声を聞かせておくれ、あなたという存在が何をもたらすのか、何を目的として存在しているのか聞かせておくれ」
先生を中心として黒い煙が湧き上がってきた。
「汝の声を聞かせよ」
手をかざした透明な丸い石が柔らかな紫色の光を放つ。
「セイレーンの声」
一筋の薄紫色の光がまっすぐに伸びてサブレさんのドクロの指輪へと刺さった。
「ふわっ!」
「おおげさねぇ、痛くもなんともないでしょ」
「すいません」
「集中が乱れるからしばらく静かにしていて」
少し怒ったように言った。
「静かになんかしてらんねぇな!」
「え?」
「せっかく好きなだけ喋れるつーのになんで黙ってなきゃならねぇんだよ。人間の言うことにいちいち従わなきゃならん道理なんかねぇぜ」
サブレさんの指のドクロが光輝きながらカタカタしている。
「うわぁ………すごく喋ってますね」
どう見ても呪いの指輪に見える。
「何見てんだよ、怖いか?怖いのかお前ら、ほらどうだこうだぞ、こう!泣き喚け人間どもハーッハ!」
さっきよりも一段を歯を震わせている、怖がらせようとしているようだけどどこかコミカルな雰囲気があって少し笑ってしまった。
「これがユリア先生のスキルですか」
なんというか魔法って色々あるんだな、と思わせてくれる魔法だ。
「先生?」
「ああごめんなんだか驚いちゃって」
「なぜ先生が驚くんですか、先生のスキルじゃないですか」
「違うの。いつもは違うんだよ、こんなに喋らないんだよいつもは。だからなんなんだろうこのドクロは、と思って」
「オーウ!なかなかいい女じゃねぇかドキドキするねぇ、そそるねぇ、お前もそう思うだろちっこい魔術師よぉ」
「魔道具のくせに人間の美醜がわかるのか?」
「わかるわかる、なんだってわかるぜ。お前の胸の高鳴りだってバッチリわかるぜ」
「それはお前のせいだろ」
「ハッハ!嘘をつくんじゃねえ、俺にはわかってんだよ。お前の心臓が高鳴ってるのはもっと前から。この部屋に入った瞬間からだ。お前この女に惚れてんだろ?」
「ば、っばか何言ってんだよこの野郎」
「ハッハ!さらに鼓動が早まった。どうやら図星だったようだな。わかるわかる、甘ったるい匂いと柔らかそうな体、けだるげな雰囲気、色っぺえよな、今すぐにでも襲い掛かっちまいてぇよな、わかるわかる」
「いい加減なこと言ってねぇで今すぐその薄汚ねぇ口を閉じやがれ呪具野郎、今すぐ叩き割ってやろうか!」
「ハッハ!いい加減だと?俺にはお前の鼓動が直に伝わってくるんだ。俺の前では嘘つけねぇぞ」
「破壊してやる破壊してやるぞこの呪具野郎!」
「やれるもんならやってみな!俺はそう簡単には壊されるような軟弱ものじゃねぇぞ、人間を楽しみつくすって決めてんだからよ」
「調子に乗ってられるのも今のうちだ。見てみろあの装置をお前なんかあっという間に切断してやる」
「ハッハ!あれで?あんなもんで!?笑っちまうぜ、これだから人間ってのは面白いよな馬鹿げてるぜ!」
「無駄な強がりを」
「強がりなんかじゃねぇ、笑っちまうんだよあんなちっぽけな魔力を通すことしかできねぇガラクタなのによぉ。あんなもん俺を壊せるだなんて本気で思ってることによ」
嘲笑の響き。
「しかもそのちっぽけな魔力だってあの丸いのをただ回転させるためだけにしか使えねぇだろ。俺を切断しようってんなら刃にも魔力を通すような奴じゃなきゃ傷ひとつつけられやしねぇだろ、ただの鉄の塊じゃねえかあんなもん。もう一回聞くが本当にできると信じてるのか?本当にそんなことも分からないくらいの出来損ないなのかお前は?だとしたら魔術師としては3流だよお前」
「誰が3流だこの野郎!動いてるのを見たことすらないのに魔力の流れなんて分かるわけねぇだろ」
「ああん?そうなのか。そうかこの部屋は雰囲気から言ってそこのいい女の部屋、ってことはあれも女のやつか。まあだったらわからんでもないか………3流って言葉は取り消してやるよ」
「どうでもいいからもう永久に黙ってろ」
サブレさんは顔を真っ赤にしながら肩で息をしていた。




