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92話 -最悪-

 


「分からないとはどういうことだ」


「こんなことをしてただですむと思っているのか今にきっと兵士が来るぞ」


「質問の答えになってないぞ」


 サブレさんの声が終わるか終わらないかというタイミングで絞られた喉の音がした。


「サブレさん、そんなに首を絞めたら喋れないですよ」


 首を掴まれて吊り上げられた鑑定士の人の顔が薄紫色になっている。


「こいつはなんでこんなに反抗的なんだ。勝てないのは分かってるだろうに」


「ブハァア!」


 大きく息を吸い込む音が聞こえてサブレさんが指の力を緩めたらしい、ということが分かった。


「兵士さん助けに来てくれると思っているなら無駄ですよ店主さん。この人はこう見えても特級宮廷魔術師です」


「なに、まさか………」


「知っていると思いますけど特級宮廷魔術師は一般人の身分ではありませんので裁判をしても勝ち目はありませんので、言われたことを早く済ませるのが賢い生き方ですよ」


「特級宮廷魔術師ならなんで………わかりました詳しくお話しします」


 さっきまで反抗的だった鑑定士の人が諦めたような表情に変わって、それと同時に地面に足が付く音がした。


 やっぱりサブレさんがあの服を着てるのってほかの人にとっては紛らわしいな。普通の人は姿形を見て相手がどういう人間であるかを判断しているというのがこれではっきり分かる。


 貴族様とかの身分の高い人たちは身分の高そうな服装をしているので知らなくても丁重な扱いをする。もし変な対応をしてしまったらどうなるか分からないからだ。けれどサブレさんは一般人の格好をしていて、僕とウミカも一般人の格好をしているので一般人にしか見えないんだ。


 だから店主さんがさっき言いかけたのは特級宮廷魔術師ならなんでそんな普通の格好をしているんだよ、っていうことだと思う。わかっていれば最初から素直に言うことを聞いていたのに、みたいな。




 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆




「先ほども言った通り本当にこの魔道具と魔武器がもたらす効果は現時点では分からないのです」


「それでよく鑑定士なんて名乗っていられるな!」


「そういわれましても………」


「言葉が荒くなってしまってすいません。サブレさんは指輪の魔道具が抜けなくなってしまったことに焦っているんです」


「そういうことですか………」


「本当になにもわからないんですか?せめて指輪のことについてだけでも」


 僕とウミカのものについては使わなければ何もおこらないと思うけど、もうすでに身に着けてしまっているサブレさんはそうもいかないだろう。


「私どもは鑑定士とは言いましても鑑定のスキルを持っている人間はそれほど多くありません」


「そうなんですか」


「ほとんどの鑑定士は過去の文献をもとに魔道具の種類と効果を学びます。そしてそれをもとに実際に使用してみて本当にその効果があるのかを確かめるという確認の方法をとっています。水を生み出す魔道具であればある程度同じような形状であるとか、魔法文字の記載だとかをもとに判別するのです」


「なるほど………」


「もちろん鑑定のスキルをもっている人間もいますが大抵は国や貴族のお抱えであることがおおいです。しかし魔道具というものは毎日のようにダンジョンなどで見つかります。そうなると鑑定士の人数が足りないのでスキルを持っていない人間でも鑑定することが求められるのです。しかしお客様のお持ちのものについてはよくある魔道具とはその形状とは明らかに異なっていますので、その効果を知ろうとした場合かなりのお時間が必要になりますし、場合によってはわからないままご返却、ということもあります」


「うむむむむ………」


「ですので今の段階では分からないということしか申し上げられません」


「教えてくださってありがとうございます。どうしますかサブレさん」


「こんなものつけたままだとおちおち寝てもいられない。あの婆め………なんでとめなかったんだよ」


「ちなみに店主さん」


「なんでしょうか」


 お店の壁際で大人の男の人たちが立ち上がるのが見える。このお店に来て揉めた時に僕たちを力づくで追い出そうとした人たちだ。


「この指輪は悪い効果をはめている人にもたらす可能性はあるんですか?」


「残念ながらあります。文献には呪いの魔道具を身に着けた途端に、見えるはずのないものが四六時中見えるようになった、だとかつねに頭痛や眩暈がするようになった、だとか痛みと共に喉が黒ずんでいって、咳をした際に喉が軟骨ごとボロっと腐り落ちた、などというものまであります」


「全部お断りだ!!」


 サブレさんが叫んだ。もちろんそうだろうな、どれも嫌だったけど特に最後の例は恐ろしすぎた。


「あとこれは申し上げていいのかどうかわかりませんが………」


「なんだ教えてくれ、こうなったらちょっとでも情報が欲しい」


「ええ、お気持ちはわかります………ええと、私どもの業界では悪い影響をもたらす魔道具を呪いの魔道具と呼んでいて、その中でもドクロが刻印されているものは、それがどんなに小さかろうと気軽に触れるべからず、といわれています」


「それって………」


「ええ、呪いの魔道具の可能性が高い、といわれています」


「最悪だ!!」


 サブレさんがはめている指輪の魔道具は刻印どころかドクロそのものの形の指輪なんだ。しかも今頭を掻きむしっているサブレさんの左手からドクロがカタカタいう音が聞こえる。まるでドクロが笑っているかのようだ。


 咳。


「大丈夫ですかサブレさん!」


 突然サブレさんが咳き込んだ。多分興奮しているからだと思うんだけどさっきの店主さんの言葉を聞いた直後だから、ただの咳じゃないのかもしれないと思ってしまう。


「俺の喉を見てくれモルン!黒ずんでるか!?黒ずんでいるのか!?」


「いえ、僕が見る限り全然普通の喉です」


「本当だろうな、安心させようとして嘘をついているんじゃないだろうな?ちょっとでも黒ずんでいたらはっきり言えよ!」


 かなりサブレさんが詰め寄って来ているけど、僕にはいつも通りの感じにしか見えない。


「全然いつも通りの喉です」


「なんだか喉がイガイガするんだよ、ってことは黒ずんでるってことだよな?」


「黒ずんでないです、イガイガするのは多分咳をしたからだと思います」


「正直に言えよ、気休めとかいらんからな」


「あの……お取込み中のところ申し訳ありませんが、それほどまで心配する必要はないかと思います。実際呪われた魔道具というのはそれほど数が多くあるわけではありません、私どもは毎日のように魔道具を見ていますがせいぜい年に2つか3つ程度のものですので」


 あまりにも慌てふためいているサブレさんを見て店主さんが言ってくれた。


「年に2つか3つを少ないみたいに言っているが俺にとってみれば結構あるな、っていう確率だぞ。何を気休め言ってんだ!」


「いえ、気休めではなく呪われた魔道具かもしれないと持ってくるお客様は大勢いらっしゃいますがそのほとんどが普通の魔道具か、あるいは偽物の魔道具です」


「さっきドクロはヤバいと言ってたばかりじゃないか。それじゃあ聞くがこの指輪は思いっきりドクロの指輪なんだが、これだけがっつりドクロの魔道具はよくあるのか?」


「いえ、その………私が見た中で一番大きいドクロです」


「ほら見ろーーーー!!やっぱ気休めじゃねぇか!」


「すいません………そういうつもりではなかったのですが、申し訳ありません」


「謝罪とかはいい。今いいことを思いついた」


 何だろう、なんだか怖いことを言い出しそうな気がする。


「本当に大丈夫だと思っているならこのドクロの指輪をあんたの口の中に入れさせてくれ」


「ひゅう!」


 店主さんが変な声を上げた。


「なんとなく指にはめているやつより口の中に入れたやつのほうに呪いが沢山いく様な気がするんだ、いいだろ?本当に大丈夫だと思っているなら問題ないよな?」


「いえ!それは!あの、わたしには家族が、下の子はようやく3歳になったばかりで、この間無事に七五三を終えたばかりで、父親として子供たちの成長をーーー」


「やっぱ呪いの魔道具じゃねえか!」


「落ち着いてくださいサブレさん、そんなのいつものサブレさんらしくないですよ」


 僕の知っているサブレさんはおじさんの口の中に指を入れさせてくれなんて頼むような人じゃ絶対にない。


「モルン………お前の口の中にこのドクロの指輪を」


「すいませんそれは無理です。もしそれが呪いの魔道具じゃなかったとしても無理です」


「そんな、モルンお前まで、ああ、なんだか喉がかゆい気がする」


「気のせいですよサブレさん、喉は何ともなってないですし、ね?ウミカ大丈夫だよね?」


 今までにないほど不安がっていて僕だけの言葉じゃ足りないみたいなので援軍を呼んだ。


「あれ、ウミカ………」


 気が付くと僕の援軍は戦場から少し離れたところにいて、自分の身の安全だけを最優先に考えていた。



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