89話 -お買い得な商品-
「さあ続いての商品だよ」
まるで何事もなかったかのようにお婆さんが話を進めていくんだけど、僕はなんだか少し納得いかない気がする。
魔武器には鞘が付いていなかったので僕はポケットに直接いれている。だから太腿にずっとナイフの感触があって落ち着かない。肌にもポケットにも傷がついたりはしていないから問題はないんだけどそれにしても普通じゃないと思う。
少し前に魔武器の危険性について真剣に語っていたサブレさんはいったいどこへ行ってしまったのだろう。
「残りはふたつだ、ふたりとも気に入るといいねぇ」
そう言ってお婆さんは黒い布が掛けられた机の上に置いた。
「指輪と眼鏡?」
「俺は目は悪くないんだけどな」
「ヒヒッ!そんなのは関係ないさ」
「いやなにいってんだ。目が悪くないのに眼鏡をかけてもしょうがないだろ」
「関係ないさ。ほら、この眼鏡にはレンズが入ってないからね」
「あら」
レンズのところに持って行ったお婆さんの指がレンズのところのフレームを隔てて行ったり来たりしている。
「伊達メガネか」
「ただの伊達メガネじゃないよ。れっきとした魔道具さ」
「それが魔道具?」
「なんだお得意の鼻で匂いをかき分けられるんじゃないのかい」
「言われてみれば………そうかモルンの魔武器の匂いが強いからそっちに鼻を持っていかれてるんだ。そういう時は触ってみればわかるんだ、皮膚に魔力を感じるからな」
サブレさんは眼鏡を手に取った。
「魔力を感じる」
「ということは魔道具なんですね」
「さっきあたしがそう言ったじゃないか、疑り深いね。そんなに人の言葉を疑ってばかりいたら嫌われちまうよ」
「すいません」
叱られてしまった。けどお婆さんがあまりにもあやしいのが悪いんじゃないかと思う。きっと誰でも疑ってしまうだろう。
「さっきの魔武器と言いどこで見つけてくるんだ?眼鏡の魔道具なんてあまり聞いたことがないぞ。めずらしいから結構な高値で取引されるんじゃないか、効果が何か次第だが」
「長年やってればいろいろと伝手があるんだ。商売の生命線だから教えられるはずないけどね」
「効果は?鑑定士に持って行ったんだろ?」
「そんなことはしてないよ」
「なんだって?それじゃあどうやってこの魔道具が何の力を持っている魔道具か知るっていうんだよ」
「まともな鑑定士は金がかかるからあたしは通さないって決めているんだ。効果を知りたければ客自身が持っていけばいいのさ」
「随分ひどい扱いだな、まともな商売人とは思えない」
「何言ってんだい逆だよ逆」
「逆って何がですか?」
「まともだからこそ鑑定士を通していないことを正直に言っているんじゃないか。詐欺師だったら高く売れそうな効果を適当に言ってるはずだろ?そのほうが高く売れるんだから」
「うーん………まあ、そうか?」
「けどそれだともしいいものだった場合に損してしまうんじゃないですか?」
「けどその代わり悪いものだったとしてもあたしは知らないよ。こっちは最初から言っているんだからね、何かは分からないけど確かに魔道具だって。あとは客が自分自身が判断することだよ、金額に見合っていると思えば買えばいいし、そうじゃないなら買わなけりゃいい。このやりかたなら、良いものにしろ悪いものにしろあたしは仕入れた金額よりも高い金額で売れば利益は出るって算段だ」
「なるほど、そういう商売の仕方もあるんですね。目利きに自信がある人なら得するかもしれないです」
「確かにな………まさかこんなところで商売の勉強をすることになるとは思わなかった。ただ俺は魔道具に関して目利きできるほどの知識はないから得するかどうかは運しだいだな。魔道具とはいえガラクタは二束三文だからな」
「そうなんですね魔道具って全部高いのかと思っていました」
「これを見てみろ」
そう言ってサブレさんは光で地面を照らした。
「これは携帯型の光を生み出す魔道具だが480万ゴールドだ」
「うわぁ!さすがの金額ですね」
「光量も十分あるしこの魔道具自体が人気だからな。けど何でもかんでもこのタイプの魔道具なら高いわけじゃなくて光量がものすごく弱いのもある。本にピッタリくっ付けてようやく文字が一文字だけうっすら見えるくらいの光量しかないやつとかな」
「ええぇ………いらないような気がします」
「そんなんでもたしか5千ゴールドくらいだったな」
「5千ゴールドですか!それでも結構高いですよ。串焼肉が50本も食べられるじゃないですか」
「魔道具は魔道具だからそんなんでも価値があるんだよ。学者とか研究者はそういう魔道具を解体して調べることで仕組みを解明したり、魔道具を作り出そうとしたりするからな」
「なるほど………それじゃああの眼鏡は」
「全く分からん。何件か魔道具屋は見て回って事はあるんだが記憶にないから、珍しいタイプの魔道具だと思う。なんにしろ効果が分からない以上はなんともいえないな」
「いっておくが眼鏡のほうはそっちの可愛い子にしか売らないよ」




