88話
「捕まえましたよサブレさん!」
僕は手に持った魔武器であるナイフをサブレさんに差し出した。
「モルン、お前魔武器をがっつり握ってるぞ」
「あ!」
「持つなら柄のところを握れ。刃を持つと手が切れるぞ」
「わわわわあ!」
僕はナイフの刃の部分を握っていた。服の中に入ってきた魔武器を捕まえることに必死過ぎて僕はとんでもないことをしていることに気が付いて手を放していた。
「あ!」
魔武器が下に向けた手から落ちない。
「あれ?」
手を振ってみてもピタリとくっつたままだ。
「イーヒッヒッヒ!なんだ随分となつかれちまってるじゃないかい」
「そんなことあります?」
これはどういう現象だろうか。
「意志を持つ武器、か………。やはりしっかと調べてみる必要があるな」
「モルン、なんかそのナイフ色が変わってきた」
「あ………」
黒っぽい色だったはずなのに刃の根元からゆっくりと薄くなっていく。
「普通のナイフの色になってる」
「柄の色も変わってきてる………白っぽくなってきた」
「それはあんたになついた証拠だよ、よかったじゃないか」
「よかった、んですかねぇ?」
けどなんだか少しうれしい気がする。怖い怖いと思っていたけど刃に触っても肌は切れていないし体調的にも何の変化もない。
「騙されるなよモルン」
「え?」
「色が変わったら魔武器が懐いた証拠で、何の害もなくなったなんて話を俺は聞いたことがないぞ」
「そうでした、そうですよね」
言われてみれば僕は何で納得しちゃったんだろう。
「いつものお前らしくもないな。もうすでに脳を侵食されているんじゃないのか?」
「ええぇ!?ちょっと待ってくださいよ、どうすればいいんですか僕は。一回誰かこのナイフを僕の手から取ってみてくださいよ」
「………」
「………」
「………」
「何で誰も何も言ってくれないんですか!サブレさん!」
「落ち着けモルン。俺が触ろうとしたらどうせさっきみたいに逃げるだろ。いまそんなことになっているのはもともとそれが原因だろ」
「そうですけど………」
けど本当はサブレさんが逃げている魔武器を無理に捕まえようとしたことでなったんだと思う。
「私ちょっと触ってみる」
「ウミカ大丈夫?」
「なんとなく大丈夫な気がする」
そう言ってウミカはナイフの腹を撫でた。
「うん、落ち着いてる」
ウミカ魔武器は猫じゃないし、そういうことをしてほしかったんじゃないんだけど。
「ほら誰が触っても大丈夫だろ、あたしの言った通りさ。だから魔武器はあんたにすっかり慣れちまったってことも信じても大丈夫さ」
「本当ですかぁ?」
なんだかいまいち信用できない。
「あんまり触っていると手を切るよウミカ」
「多分びっくりさせなきゃ大丈夫だと思う」
いやだから猫じゃないってば。
「丁度いい機会だ。あとで少しだけ魔力を流してみろ」
「ええぇ!?危ないですよ!」
「大丈夫さ。魔武器は魔力を流してこそ本当の威力を発揮する。魚は泳いでる姿が一番美しいのと同じで魔武器だって魔力を通してこその魔武器さ。きっとそいつだって喜ぶはずさ」
「そうだな。やはり本なんかで分かろうとするのが間違っていた、せっかく本物があるんだから自分自身の目で確かめてみるべきだ。大丈夫だ、確かに婆さんの言う通りその魔武器は確かにお前になついているようだから危害を加えることはないだろう」
「この子はきっと大丈夫だよモルン」
「なんでみんながそんなにこの魔武器を信用しているのかが分からないんですけど」
「随分と疑り深いねぇ………」
呆れたようにお婆さんが言う。
「そんなに疑ったらこの子が可哀そう」
ウミカが目を細めてナイフを指で撫でている。
「そんなに怖がるなモルン。恐怖におびえていては何も前に進まないぞ」
サブレさんが勇気づけようとしている。
「なんでこんなことになっているのかなぁ………」
僕にはわからなかった。




