86話
「魔武器!?魔武器ってなんですか?」
しらなくても名前の響きだけでなにやら恐ろしいものだとわかる。
「刀身をよく見てみろ」
言われた通り光に照らされた黒っぽい刀身に目を凝らしてみるとなにやら読むことのできない文字が書かれていることに気が付いた。
「書かれているのは悪魔文字だな。この前のカードの時と同じだ」
「ええ!?」
驚いて僕は後ずさりしていた。
「怪しい野菜売りの人が持っていたあのカードのことですか?」
「そうだ」
「ええぇ!」
カードが巻き起こした大事件を思い出す。あのカードのおかげで僕は特殊スキルを得ることはできたけど、あのカードのせいでサブレさんに見捨てられるところだった。そしてサブレさんの服を僕が台無しにしたあの事件。
「なんだいそちらのお客さんはあまり驚いていないね」
「充分驚いている。なぜこんなものを持っているんだ?」
「なんでってたまたま手に入れたってだけのことさ。そんなことよりこれが魔武器だってよく気が付いたね、感心したよ」
「魔力が匂うんだよ。まともな魔術師ならすぐに気が付くくらい特徴的な匂いだ」
「いやいやいやそんなことはないさ、気が付かない魔術師のほうが多いんじゃないかね。お客さんは特別にいい鼻をもっているんだ、誇っていいよ」
「ふたりとも触るなよ、頭がおかしくなるぞ」
「ええぇぇ!?」
「何言ってんだいそんなことあるものかヒェヒェッヒェ!」
お婆さんは被っているフードが大きく揺れるくらい笑った。
「本で読んだぞ。魔武器は普通の武器とは比べ物にならないほどの殺傷力を与える代わりに使用者を狂わせる。書かれている文字が剣に特別な力を与えていると考えられているが、悪魔文字は未だ解読されていないためになぜ力が生み出されているのかがわかっていない」
「なぜ力が生み出されているのかわかっていない、それってどういうことですか?」
「魔法を扱うには当然魔力を扱う必要があるが、魔武器は魔臓をもたない人間でも魔法を使ったかのような桁外れの威力を出すことができる。それが魔武器の特徴だ、悪魔文字それ自体が魔力を持っているかあるいは大気中の魔素を吸収して効果を出していると考えられているが、答えはわかっていない」
「ずいぶんとわかってように言っているけど、実際は何もわかっていないということかい?」
「別に俺は学者じゃないんだから分からなくても構わない。使用者は使っているうちに悪魔文字に体を侵食されて代償として脳が魔に侵されると考えられている。過去には自分の肉親の喉を魔武器で切り裂いたやつもいたそうだ。その危険性が分かっていれば十分だ」
「さっきから危険だなんだと言っているけど本当に危険なのかね?」
「どういう意味だ」
「さっきお婆さんは手で持っていましたよ」
ウミカの声。
「そういうことさ。危険だっていうなら私はなぜ無事なのか説明できるのかい?大好きな本には書いていなかったのかい?」
「それは………ただ持っただけだからだ。使用するたびに脳が侵されるということは使わなければ害がないということだ」
「だったらなにもそこまで怖がることはないんじゃないのかねぇ」
「使うたびに脳が侵食されるなら使わないに越したことはない」
「ということは一度なら大丈夫ということだろう、そんなに怯えることはないじゃないか。もしもの時のために持っておくのは悪いことじゃないんじゃないのかい?」
「危険性が高すぎる」
「ヒェーヒェッヒェヒェ!」
「何がおかしい」
「危険なら世の中に溢れかえっているさ。それなのにたかだかこんな小さな魔武器にそんなに怯えているのがおかしくてね。だったらどうするんだい?怖いからっていって切れ味の悪いナイフで他の危険に立ち向かうってのかい?」
「自分の力で立ち向かうまでだ」
「随分と甘っちょろい考え方だね。そんなもんで乗り切れるほどこの世の中は優しいものかね?ここを天国だとでも思っているのかい?」
「………………………」
「さっきあんたは言ったね魔武器は魔力を持たない人間でも桁外れの威力を出すことができるって。それなら魔力を通した場合はどうなるのか知っているのかい?」
「………」
「その表情、知らないんだろ?教科書だけでしか魔武器を知らない人間の限界だよ。魔武器が危険だというならどの程度危険なのかしっかり知る必要があるんじゃないのかい?ただ目の前にある危険から逃げているだけでいつまでも安全に生きていけるだなんてよく考えられたものだね」
「魔武器の危険性を知る、か………」
サブレさんの手が動いた。
「駄目ですよ!ついさっきまで危険だって言ってたじゃないですか。あのカードの時のことを思い出してくださいよ。絶対何か予想もつかないことが起こるにきまってますよ」
「なにいってんだい、自分のことを殺そうと向かってきた敵が魔武器を持っていたらどうするんだい?いつまでも赤子みたいに震えて怖がっているだけじゃなにも前に進まないんだよ」
サブレさんの手が魔武器へと向かっていって、触れようという瞬間に魔武器が滑った。




