85話 -冒険者という現実-
「そうでしょうか?」
ああ、またウミカとサブレさんのやり合いが始まってしまう。
「冒険者になろうとする若者は毎年毎年出てくるものだ。誰でもなれるから何も持っていない次男や3男なんかが成功を夢見てこの場所にやってくる。そんな新人冒険者がそれからどうなるか知っているか?」
サブレさんが低いトーンで語る。こういう時は大体重要なことをいう時だから僕は心に刻み込めるように集中して聞く。
「1年以内に3分の一が死ぬ。3分の一は分かるか?10人いたら3人は死ぬってことだ」
「え………」
「3年以内に6.5人は冒険者を廃業している。今そこらを歩いている冒険者みたいな奴らも明日は生きているかわからない。この世界で何も持たないものが生きていくのはそれくらい難しいことなんだ」
通りには相変わらず多くの人が歩いている。ひとりやふたりあそこからいなくなったとしても誰も気が付かないだろう。
「死なないまでも足や腕を失うやつだってかなりの割合でいるだろう。お前たちだって見たことがあるんじゃないか?そういう人間がゴザをひいて物乞いをしているのを」
確かに何度も見たことがある、見たことがあるけど見ないようにしていた。
「いつ死神が自分に向かって鎌を振るうかなんかわからないんだ。だから準備は怠るな。死んだらもう二度と会うことはできないんだぞ」
寒い。
「サブレさんの言う通りだよウミカ、武具はちゃんとしたものを選ぼう。僕はひとりになんかなりたくないし、ウミカのこともひとりにしたくない」
サブレさんが用意してくれた家。あの家でたった一人でご飯を食べるのは相当寂しいことだろう。今日食べるものすらなかったあの生活からやっと抜け出すことができたのにまだまだ安全なんかじゃないんだ。
ひとりになることは想像するだけで寒かった。
「うん………」
「そういうわけだから婆さん。俺たちには粗悪品なんか必要ないんだ、騙すならほかのやつにしてくれ」
「イーヒッヒそう言わずにせっかくここまで来たんだから見ていったらどうだい?時間はかからないよ、うちの商品は質がいいから売れに売れちまって残り3つしかないからね」
「よくある手口だな、品薄とか限定とかいって焦らせるんだろ?」
「ずいぶんと疑り深い男だね。疑うのは自分に自信がない証拠だよ」
「それでいい。世の中は疑ってかかるくらいがちょうどいいんだ」
「本当はただ臆病なだけってこともあり得ると思うけどねぇ」
「ペテン師のくせに随分と知ったようなことを言うじゃないか」
「ペテン師は知ったようなことを言わないと商売にならないよ」
サブレさんもお婆さんも笑った。
「まあせっかく来たんだから見せてもらおうか、どうせ大したものじゃないだろうから早くしてくれよ」
「時間は取らせないよ」
そう言いながらかがんだお婆さんが取り出したものを、クロっぽい布をかぶせた小さな机の上にそれを乗せた。
「ナイフですか?」
できれば剣が欲しかったんだけど。
「鞘がないし色が変ですね」
「そうだね」
ウミカが言うように刀身が黒っぽい。場所自体が薄暗いので名にいろかははっきり断言することができないけど普通の感じじゃない。
「ふたりとも触るなよ」
サブレさんの声に緊張感があった。
「どうしましたか?」
ウエストバッグを少しだけ探っていたと思ったら、いきなり強力な光が机の上のナイフを照らした。
「光の魔道具かい、ずいぶんと便利なものを持っているね。光量からしてなかなか高かったんじゃないかい?」
「これは魔武器だな」
暗がりの中で笑顔になったお婆さんを見て僕は恐怖を覚えた。




