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83話

 


「おいモルンちょっとあそこを見てみろ」


 サブレさんが指さした先は、大きな建物と建物に挟まれた薄暗い路地で、フードを被った鼻の長いお婆さんがこっちを見ながら手招きしていた。


「なんですかねあのお婆さんは」


「何だモルンは知らんのか、そっちの鮫は?」


「私も分かりません」


 サブレさんの問いかけに僕の後ろにいるウミカは少し悔しそうな表情をして答えた。


「それなら教えてやる。ここは武器とか防具の店が多く立ち並んでいる通称武具通りだ。王都の武具通りと言えばかなり有名で、王都だけじゃなく近くの街とかからもやたらとここを目指してくる奴らが多いんだ」


「なるほど、言われた通りすごく人が多いですもんね」


 意識してみてみると、手に地図を持っている人を中心に何人かで輪を作っていたり、やたらと大きい荷物を持っていたりする人が目について、多分この人たちはサブレさんが言うようにほかの場所から来た人たちなんだろう、と思う。


「なぜわざわざ王都まで来るんですか?自分たちの街で買えばいいんじゃないですかね」


「王都の武具通りで売っている武具は品質がいいと評判なんだ。だから剣でも戦っている途中で絶対に折れたりしなくて、成功している冒険者たちは全員ここで武器を買っているんだ」


「えーそうなんですね。やっぱり王都でお店を持つってすごいことだから鍛冶師の人たちも相当腕のいい人たちが集まっているんでしょうね」


「それは嘘だ」


「え?嘘って何がですか」


「別にここの通りで売っている剣が特別に品質が高いというわけではないそうだ。そりゃあもちろん金さえ払えばいい剣は置いてあるが、普通の金額で売っている剣は普通程度の質しかないんだ」


「そうなんですか、なんだかちょっとガッカリしたような気がします」


「なぜかと言えば店で売られている剣にしろなんにしろ、ほかの街で作られた武器を運んできてここで売っているのがほとんどだからだ。王都は土地代が他よりも高いから、ここでわざわざ鍛冶をするより持ってきたほうが金がかからないんだ」


「なるほど………考えてみればこれだけたくさん武具を売っているお店があるのに鍛冶をやっている所は見たことがないですね」


「そうだろ。そのうえ武具というのは結構高い」


「それすごくわかります。僕も通るたびによく値段を見ていたんですけど、気軽に買える金額じゃないなと、思っていたんです」


「というか鍛冶が盛んな街で勝った方が安いんだ。その街からわざわざ王都まで持ってくる運送料がプラスされているからだ」


「なるほど」


「ところが冒険者になろうとほかの街から意気揚々とここまでやってきた何も知らないやつらがここにきて驚くんだな、思ってたよりも値段が高いっていうことに」


「サブレさんがさっきしてくれた説明だとそうなりますよね」


 もし僕が田舎に住んでいて冒険者になろうと思ったら、みんなと同じように王都で武具を揃えたいと思ってここに来るだろうな。


 冒険者っていうのは毎日のように命をかける仕事だから少しくらい無理をしてもいいものを手に入れたい。成功している冒険者がみんな王都で買っているというのならなおさらだ。絶対に成功して立派になった姿を田舎のみんなに見てもらいたいと思うはずだ。


 さすがはサブレさん、いろいろなことを知っているんだな。



「けどせっかく王都まで来たんだから武具を買いたい。買いたいけど高い、そうなるとどうすると思う?」


「どうするんですか?」


「その答えがあれだ」


 サブレさんは再び暗い路地にいるお婆さんを指さした。


「あういう所で質の悪い武器を買わせるような店屋が儲かる」


「あ!」


「何も知らない田舎の若者があっという間に騙されるんだ。特別に安くお譲りしますよ、なんて言われてな。そして実際にまともな店で買うよりは安い、質が悪いからな。これから冒険者になろうというやつで武具の目利きに長けているやつなんかそうはいない。しかもあの暗さだ、そうでなくても判別は難しいさ」


「すごい商売ですね」


「つまり私たちは田舎から来た何も知らない若者だと思われているということですね?」


「そういうことだ」


 ウミカがため息をついた。


「でもなんで………」


 言いかけて気が付いた。


 僕たちはともかくサブレさんといるときに店の店員さんにそんな扱いを今までされたことがなかった。むしろ逆で初めていくお店でもすごく丁寧な扱いをされることばかりだった。行列を作っているお店も並ばずにはいることができたりしたり、店員さんたちがやたら頭を下げたりしていた。


 なぜだろう、と思ったところで気が付いた。それはサブレさんの服装だ。今までサブレさんが着ていたのは誰が見ても明らかに高級品という服だった。生地のしっかりした感じも色使いもデザインも誰が見てもすぐに分かるくらいに立派だった。あれだけ立派だとお金持ちか貴族様だというのがはっきりわかる。


 それを僕がすっかり駄目にしてしまった。だからあの日サブレさんは近くにたまたまあった露店の服屋さんからとりあえずの服を買って、汚れてしまった服は処分してしまったんだ。


 それからサブレさんはその時に買った服をよく着ている。気に入ったんですか?と聞いたことはないけど多分気に入ったんだろうと思っている。サブレさんなら一着だけじゃなくていい服をたくさん持っているはずだから、それなのにわざわざ着るのは気に入っているからとしか思えない。僕個人としては立派な服を着ているサブレさんのほうが好きなんだけど。


 そしていまサブレさんが着ているのはその時に露店で買った普通の服、だから田舎から出てきた若者たちと間違われているんだと思う。


「ちょいとちょいと皆さま方、困っているんでしょう?イヒヒヒヒ、ちょいと見ていってはくれませんかねぇ?皆さま方だけには特別価格でお安くしておきますよ」



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