81話
「結論から言えば教師を紹介するよりも学校に入り直した方が早いんじゃないかと思うね」
「しかし学校への編入試験は一年ごとでは?そうなると半年以上はあるのでその間の時間を無駄にしたくないと考えているのですが」
「いや一年ごととは限らない。手続きと試験はもちろん必要だが規則としてはいつからでも入れることになっている。ただあまり例がないだけさ」
「そうでしたか、知りませんでした」
「ただここの学校に入るのは難しいね。一応この国における最高学府だから試験の難易度もそれなりさ。あんただって結構な時間を受験対策に費やしたんじゃないかい?」
「そうですか………」
「勉強を教えるのも確かに大事だが、それ以上に同世代の子供たちと接することも重要だよ。学校に入ればその両方が手に入るんだからそのほうがいいと思うよ」
「わかりました、そうさせていただきます」
「キウル、準備はできているね?」
「もちろんです」
上下黒の服装をしたキウルさんはそう言って向こうのテーブルの引き出しから持ってきた1枚の書類と分厚い本を5冊持ってきて僕たちの目の前にあるテーブルの上へと置いた。
「こちらが編入するために必要な書類となります。モルンさんの住所氏名年齢を記入してあとは身元保証人の欄がありますのでそちらにシャイタンサブレ、の名前を記入すれば試験は受けることができます」
「試験ですか!?」
不安だ、ものすごく不安だ。
「もうすでに身元引受人の欄に名前が書かれているんですが?」
「それは私の名前だよ」
「なぜ学園長の名を?」
「別に書いたっていいじゃないか、欄はひとつじゃないんだから」
「それはそうですが学園長がモルンに会ったのは今日初めてですよね?それなのに身元引受人というのは………」
「身元引受人ったってそんな大層なもんじゃないさ、一般の学校だからね。それにサブレ、あんたがわざわざ教師を紹介してくれだなんて手紙をよこした時点で、私もその子に興味があったのさ。もし今日会ってみて大したことが無さそうだったら名前を書いてない方の紙を渡すつもりだった。ところがあってみたらなかなか面白そうじゃないか、合格だよ」
いつの間にか僕は合格していたようだ。
「ありがたく頂きます」
「筆記試験はここから出題されるからしっかりと勉強するんだよ」
学園長はそういって分厚い本の山を手のひらでボンッと叩いた。
「それから戦闘能力試験もあるからそっちも鍛えておくんだよ」
「学園長、戦闘能力試験ではなく運動能力試験です」
「ああそうだった、一般の学校はこことは違うんだったね。まあいいさ、同じようなものだからサブレには想像がつくだろうから何をどうすればいいのかはサブレに聞くんだね」
「は、はぁ………」
「試験は1週間後ということでもう向こうの学校にも話は通しているのさ」
「おお、それは話が早い。さすがは学園長です、私としてもできるだけ早くこれを解決してしまいたいと思っていたのでありがたい申し出です」
いっしゅうかん!!驚きすぎて声が出ない。
1週間でこの本の山を勉強しつくさないといけない?そんなことは到底できそうもないと思う。まだ1ページも開いていないけどいかにも難しそうな本だ。
しかも運動能力試験なんて言うものまであるということは、勉強だけじゃなくて運動でもいい成績を残さないとダメということだ。サブレさんに言われて朝に走ったりはしているけどそれ以外の運動は特にしていない。
「そうだろう、私は無駄な時間をだらだら過ごすのは嫌いなのさ。まああんたがここまでするからには試験なんか軽々と突破するだろうさ」
「もちろんそれは間違いありません。万が一落ちることがあれば身元引受人の名前に泥を塗ることになりますからね」
「まさかそんなことになるはずがないね?」
「心配いりません!私が保証します。モルンはきっと学校が驚くような好成績で合格を勝ち取るに決まっています。学園長も楽しみにしておいてください。いずれこの学校にまでモルンという名が轟く日は近いと思います」
「もちろんモルンなら完全に楽勝に合格すると思います。私は妹として今まで兄を見てきてすべての面においてこれ以上優れた人はいないと思っています。優しくて頭が良くて頼りになる最高の兄です」
サブレさん、ヨシカ学園長、それにウミカまでが太鼓判を押してくれた。こんなに根拠のない太鼓判が存在していいのだろうか、僕自身は無理かもしれないと思っているのに。けど今はそんなことを言ってもしょうがないーーー
「出来る限りがんばります」
自分でもわかるくらいに僕の声は弱弱しかった。
「合格祝いのケーキを予約しておくか」
「それはすごくいいアイディアだと思います」
ちょっと待ってくださいサブレさんにウミカ。珍しく、というか僕が知る限り二人が意気投合しているのは初めてなんだけどちょっと待とうよ、一度立ち止まって冷静に考えてみようよ、もしも試験に落ちてしまった時のことを考えようよ。
僕の想像では不合格ケーキほど悲しいものはないんだよ。




