77話
「ここは………」
白を基調としたレンガ造りの建物と広い敷地、その前には頑丈そうな柵があってそこを守るがっちりとした体格で厳めしい顔をした守衛さんが守っている場所の前に来た。
「俺の母校の王立魔法アカデミーだ」
「ちょっと待ってくださいサブレさん」
「落ち着けモルン。別にお前をここに通わせようとは思っていない」
「そうなんですか?」
あまりにも立派な建物と柵の向こうにいる生徒の人の高そうな服装を見て怖気づいた僕の肩にサブレさんはポンと手のひらを置いた。
「お前にはちゃんとした教師からちゃんとした教育を受けてもらいたいんだが、あいにく俺には手の空いている教師の知り合いはいない。だから俺の学校時代の教師に紹介してもらおうと思ってきたんだ。100年くらい教師をやってそうな人だからひとりやふたりは知ってるだろうと思ってきたんだ」
「なるほど、そういうことだったんですね。びっくりしました、こんなすごい学校に行けと言われるのかと思っていました」
「この学校は貴族の子息も多いから普通の学校と違ってそう簡単には入れない。といっても内容的にはそう大したことをやっているわけではないから別に入らなくても問題はない」
「そうなんですか?なんだかすごそうな感じがしますけど」
「面倒なのは人間関係のほうだ。貴族の奴らはやたら偉そうな顔をして歩いているから絡まれないように注意しろ」
「わかりました」
そう言ってサブレさんは守衛さんのところに行ってポケットから取り出した書類を渡した。少しの時間があったけど書類は問題なかったらしく僕たちは柵の中に入ることができた。
「ウミカ大丈夫?」
「うん………」
ウミカは少し不安そうだ。無理もないと思う、ウミカはもともと人見知りだし、そもそもこの学校自体がどこか人を排除するような威圧感があって僕もドキドキしながら守衛さんの後ろを歩くサブレさんから離されないように歩いている。
建物の中に入るときに出されたスリッパも高級そうで本当に僕が履いて良いものかどうか躊躇してしまったけど、サブレさんは全くそんな様子は見せずにスタスタと歩き出したので僕も慌てて後をついていった。
周囲からの視線を感じる。やはり部外者である僕たちはこの場所の中では相当に目立つ存在みたいだ。
階段を上って行き、守衛さんがひとつの立派なドアの前に立ってノックをした。
「学園長、お客様がおいでです」
学園長!僕は声を上げそうになったのを飲み込んだ。どうりで下の階の方とは違って赤くて綺麗な絨毯が引いてあると思ったけど学園長の部屋だったんだ。
「どうぞ」
思いのほか若い女の人の声がしたあとで扉が開かれた。
「私はここで待っていますのでどうぞ」
守衛さんが言って僕たちは中に入っていった。
「久しぶりだねシャイタン・サブレ」
大きな窓からサンサンと差し込む太陽光が照らす広い部屋の中にいたのは年配のおばあさんと上下黒い服を着た若い女の人だった。
「お久しぶりです学園長」
「まあ座りな」
そういって黒く光っている高そうなソファに僕たちを案内してくれた。
「あんたひとりで来るものとばかり思っていたよ」
「話だけでは失礼だと思いましたので、本人を連れてくることにしました。手紙で書いていた通り私が教師をつけてやりたいと考えたのが、ここにいるモルンです」
「ほーう………なるほどねぇ」
普通の人とは明らかに違う鋭い眼光に見つめられて体が縮こまって熱くなっていくのを感じる。
「賢そうな顔をしているね」
「実際賢いと思います。両親ともに亡くなったことで学校に行けなくなってしまいましたが勉学に対する意欲はありますので、そのままにしておくのはもったいないと思いまして、知り合いで手の空いている教師のできる人間を紹介してもらえればありがたいです」
「ずいぶんと目をかけているじゃないか」
「かけるだけの勝ちはあると思っています」
心臓が高鳴る。サブレさんから期待されるのは嬉しいけれどここまで言われるのは恥ずかしいし、その期待にこたえられるかどうかも不安だ。
「教師を紹介しろ、か。確かに私には何人か心当たりのある人間がいるからできないことはないよ。相手方に払う謝礼は必要になるけどね」
「常識の範囲内であれば問題はありません」
「そうかい………なんなら私が教えてあげてもいいんだけどね」
「学園長」
黒い服の女の人がキリッとした声を出した。
「冗談だよ」
「一般常識程度を教えられれば十分だと思います。社会に出た時に恥をかかない程度にはしてあげたいので」
「そうかい………そっちの子は?」
「これはモルンの妹のウミカです。兄と離れたくないようなので連れてきました」
「なかなかいい目をしているじゃないか。私の若いころにそっくりだよ」
「本当ですか。思った通り危険人物だな……」
「なんだって!」
「いえ何でもありません」
少しだけ張り詰めた空気が和んだ気がした。




