75話
ペペロンチーノとトマトと玉ねぎのスープから立ち昇る湯気が食欲をそそる。お昼の日差しはくすぐったいくらいに柔らかい。
僕は食卓でウミカの帰りを待っている。あの大惨事から今日は3日後のお昼だ。あの日から僕はずっと頭痛と高熱に苦しめられ、この新しい家でずっと療養していたけれど今日になってようやく普通にご飯を食べれるくらいには回復した。とはいってもお昼までは寝ていたんだけど。
「ウミカ大丈夫?」
さっきまで一緒にいたウミカに声をかけるも返事がない。
「ウミカ?」
僕は席を立って玄関へと向かう。さあ今からご飯を食べるぞというときにちょうど玄関がノックされてウミカが向かっていったんだ。ウミカは僕の体調のことを考えて言ってくれたんでその気持ちは嬉しいけど、ウミカはあまり他人と接するのが得意じゃないから少し心配だ。とくに大人の人が苦手なんだ。
「サブレさん!」
ドアの向こうにはサブレさんがいた。サブレさんはウミカと睨み合っているらしい。どうしてもこのふたりは仲良くなれないみたいで、それが僕は不思議でしょうがない。いつもふたりの間にはピリピリとした緊張感がある。
「モルン体調はどうだ?」
「お見舞いに来てくれたんですね、どうもありがとうございます。昨日まではあまり調子が良くなかったんですけど。今日になって大分よくなりました」
「ちょうどいまご飯を食べようとしていた所でした」
「ちょっとウミカ!」
「タイミングが悪かったか」
「そんなことないです。来ていただいてうれしいです」
「まあ逆にタイミングが良かったとも言えるな。土産を持ってきたからこれをデザートにでもしてくれ」
サブレさんは掲げた。
「お、大きいですね。果物ですか?あまり見たことがないんですけど」
松ぼっくりをギザギザにしたような果物?だ。人の頭よりも一回りは大きい。
「ドドリアンといってな、果物の王様と言われているらしいぞ」
「王様ですか、きっとすごく美味しいんでしょうね。もしよかったら今から切り分けますのでサブレさんも一緒に食べませんか?」
どうやって食べたらいいのかわからないので教えてもらいたい。
「俺は全く好きじゃないんだ」
「え、あの、もしかして怒っていますか?」
サブレさんと会うのはあの日以来だ。
「そんなことは全くないぞ。好みは分かれるんだがちゃんと売られている果物であることは間違いない。それ1個で1万ゴールドもするんだからな」
「1万ゴールド!それはすごいですね」
「気を付けないと部屋に匂いが染みつくから窓は開けたほうがいいぞ」
「そうなんですね、なるほど………」
なぜそんな果物を持ってきてくれたんだろう。やっぱりサブレさんは怒っているような気がする。
「あの時は本当にすいませんでした。あの時は自分の体なのに体の感覚が無くて、頭がガンガンして景色もぐるぐる回っていたんです」
「謝らなくていい、仕方ないことだ」
「そうですか………ところでサブレさん服を変えたんですね」
僕の知っている限りサブレさんはいつも綺麗で格好いい服を着ている。見ただけで高級品だろうなという立派な服だ。けど今日着ているのは普通の服、普通の人が普通に来ているような服だ。
「せっかくのお気に入りがこの前すっかり駄目になってな」
「僕のせいですね、あの時はすいませんでした」
「いいんだいいんだ気にするな、謝らなくていい」
「すごくネチネチしていますね」
「なんだと?」
「わーなんでもないです」
急いでウミカの口をふさぐ。
「でもさっきからモゴモゴモゴ………」
「ところでサブレさんは今日わざわざお見舞いだけに来てくれたんですか?」
「それが一番だが、モルンの体調が戻っていたら連れて行こうと思ってな」
「そうなんですね、僕は全然大丈夫ですよ」
「モルン!」
「本当に全然大丈夫なんだよウミカ。今日はずいぶんと体調がいいからご飯を食べたら散歩でもしたいと思っていた所なんだ。それでサブレさんの役にもたてるなら嬉しいことだよ」
「無理をする必要はない、別に明日でも明後日でも構わないんだ。そこまで急ぐことでもないからな」
「そうなんですか?」
「まあとりあえずお前たちは昼飯を食え。食べようとしていた所だとさっき言ってただろ。俺は外のカフェで休んでいるからどうするかはじっくり決めてくれ」
「わかりました」
僕はご飯をそのままにしてきていたのを思い出した。
「モルンに何をさせるつもり?」
「なに、教師をつけてやろうと思ってな」
意外な言葉に僕は驚いた。




