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72話

 



「ある程度強くて人間性に優れた信頼できる奴隷ですか?」


 奴隷商ダフは聞いた。


「本格的に戦わせるわけじゃないからそこまで強くなくても構わないが、そこいらのチンピラに簡単に負けるようでは困る。あとは金を持ち逃げするような奴では困るからな」


「前半の条件はわかりますが、後半のものは奴隷の呪具がありますのでそういったことがあれば奴隷は死にます、ですので心配なさらなくても大丈夫かと」


「呪具は使うつもりがない、だから重要な条件だ。むしろ前半の条件より重要かもしれないな」


「呪具を使わない理由を教えていだいてもよろしいですか?」


 ダフは汗を拭いてから言った。


「あれは命令を聞かせるにはいいがデザインが気持ちが悪い。ドクロとかがうじゃうじゃ描いてあってな、それにかさばる。手にあんなゴツゴツしてものをずっとつけているのも嫌だし、なによりあれをつけて偉そうな顔をしているやつが気持ち悪い。それが理由だ」


「なるほど、そうですか」


 ダフは自分の腕に嵌めた呪具を見る。たしかに自分も子供のころはこの腕輪を気持ち悪いと思っていた。


「たしかに一部の人間は奴隷の呪具を嵌めていることをステータスとして考えているものもいるようです。奴隷を買えるということは力の証明でもありますので」


「たまに街中であれをじゃらじゃらさせて見せびらかしているやつがいるな。あれを見ると吐き気がしていたんだ」


「そうですか、それで信頼できる人間ということですね。それだとなかなかに難しい条件ですね。呪具なしで信頼できる人間となると………」


「そこはプロであるこの店の見る目を信じるしかないな。もし金の持ち逃げでもあったら怒りのあまりこの店に殴り込みをかけるかもしれないな」


「ははっ、ははっははっまさかそのような御冗談を」


 ダフは大きく笑ってみたが目の前にいる魔術師はひとつも笑っていなかった。冗談であってほしい。脂汗が噴き出してくる。本来ならばこちらに責任はないのだがこの相手はそれを本当にやって来るのではないかと思ってしまう。


 魔術師サブレ。


 最近になって急に名を聞くようになった魔術師。背は小柄で一見するとただの金持ちの家の子供にしか見えない。


 しかしながら見た目に反して性格は激烈だ。特級宮廷魔術師という、魔術師の中でも一握りしかなることのできない職業に苦も無くつくことができたというエリート。


 大勢の観衆が見ている前で特級騎士と激闘を演じ敗れたとはいえその実力を見せつけた。さらにその試合で行われたギャンブルでの金をめぐってブルーノドザンダ組と揉めて、一夜にしてマフィアを壊滅状態に追い込んだと聞く。


 たとえなにも知らなかったとしても、小柄な体から放つ威圧感でただものではないとはすぐにわかるだろう、と考える。ダフ自身、魔臓を持っているので身体強化を使うことはできが、魔力はほんの微々たるもの。一般人より多少力がある程度のことだ。


 しかしだからこそ特級宮廷魔術師の恐ろしさが分かる。奴隷商ダフは今すぐに逃げ出したかった、そして体中の汗を拭いて今日はもう早じまいしてしまいたかったが、そうもいかないのは分かっていた。


「それで、いるのか?」


「ひとりだけ思い当たる人物はいます。しかしそれがお客様のお目にかなう人物なのかは断言できません」


 ダフは強く言い切った。何かあっても自分の責任ではないということを間接的に伝えているつもりだが果たして伝わっているだろうか。いや、多分無理だろう。力を持った人間は持っていない人間に対してあまりにも冷酷だ。きっと自分の都合のいいようにしか考えないだろう。


「ただ若くはありませんもう40歳を超えていると思いますし、膝が悪いので走ったりすることもできません。しかし若いころはCランクの冒険者でしたのでいまでもある程度の強さ、という点では満たしている可能性はあります」


「Cランク、か」


「ご存じとは思いますがCランク冒険者というのは魔臓を持たない人間が到達できる強さの限界ランクと言われています。魔臓を持っているものからすればその強さなどあってないようなものですが、先ほどおっしゃっていたチンピラに簡単に負けるなどということはないかと思います。私も実際に見たことがあるわけではないので恐らく、ということしか言えませんが」


「なるほど」


「人間性に関しても彼は、名をイゴセというのですが。イゴセはとある剣術道場で指南役をしていたので悪いものではないと思います。私の店にいる間も問題行動を起こしたことはありませんし、それは冒険者時代もそうだったと聞いています」


 頼む、大丈夫であってくれとダフは思う。今まで問題行動を起こしていないんだからこれから起こすなんてことはやめてくれ、と。


「そいつは今この店にいるのか?」


「はい地下におります」


「そうかそれなら一度会ってみよう」


 ああ、気に入らなければ良かったのに、帰ってくれればよかったのにと思う。条件に合う奴隷はいないというのは簡単だがそんなことは奴隷商である自分のプライドが許さない。


 我ながら面倒くさい性格だ。そう思いながらお茶を一気に流し込んでからダフは椅子から立ち上がった。



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