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66話 -不思議なカード-

 



 出てこいやっていって自分で出した何かを手袋の手で掲げた。


「カード?トランプか何かですか?」


「トランプ一枚で何をしろっていうんだ。ふざけてるのか、こんなもんただのゴミだろ」


「ちっちっちっちっちっち!」


「うぜえ」


 人差し指を振りながら舌を鳴らしながら言うその言い方は確かに僕も少しイラっとしたが、それを即座に口にできるサブレさんはやっぱり度胸が凄いと思う。仮面をつけたこの人を僕まだ恐れている。


「君たちの目は節穴だなぁ。これがなんなのか分からないなんてなあ」


 挑発的に言ったその人からサブレさんが目にもとまらぬ速さで、トランプみたいなそのカードを奪い取った。


「これは………」


「なんですか?」


 気になって僕はサブレさんの手元を覗き込んだ。


「トランプじゃないですね、数字が書かれてないです。上半分は絵ですね瓢箪みたいなのに顔が書いてあります。そして下半分は説明書きみたいなのが書いてありますけど全然読めない文字ですね」


「これはエニグマだな」


「そうそうそうそうその通り!ようやく気が付いてくれたかい、少々時間はかかったが何とか赤点ぎりぎりといったところだ」


「裏側だけ見せられてわかるもんか」


「マニアなら見た瞬間に気が付いて当然なものだ。だから言い訳は無しだよ、といっても赤点ギリギリの合格だから追試はしないでおいてあげるよ。良かったねぇ僕みたいな優しい先生に出会えてさ。体育のゴリマツだったら泣いたとしてもやらせているところさ。ところで知ってるかい?ゴリマツにはよくない噂があってね、なんでも体育の苦手な女子生徒を放課後の誰もいない体育館に呼び出して追試と称してマット運動をさせるんだけど、そのマット運動っていうのがーーーーー」


「エニグマってなんですか?」


「ダンジョンの宝箱から見つかる「よくわからないもの」の総称だ。ダンジョンからは武器や硬貨などいろいろなものが見つかるが、そのなかにはいったい何なのか、何に使うのか分からないものも出てくる。それをまとめてエニグマと呼んでいるんだ」


「さすがはサブレさんですね」


「実際に見るのは初めてだ。本には異世界のものだとか大昔に滅んだ古代文明のものだとか神の落とし物だとかいろいろな説があると書かれていたはず、つまりはなんなのかが全く分かっていないということだ。コレクターの間でエニグマは高く取引されるはずだが………オイ、これをどこで手に入れた?」


「えっえっえ?ゴリマツのこと?」


「違うわ!」


「何だ違うのかい、もっと話したかったのに。別にそれくらいのものはどこででも手に入るよ。エニグマなんて偉そうな名前の割にはオークションなんかだとよく出てくる程度のものだよ」


 さっきサブレさんは自分でダンジョンから見つかると言っていたからダンジョンで見つけたんじゃないのかな。


「そんなことは………確かエニグマはダンジョンの中でも深い階層でしか見つからなかったはず、だからこそ高値で取引されるわけだが。本には確か歯車の欠片みたいなものとかドクロの形をした石とかそんなのが出てきたと書いてあったな。これくらいはっきり文字が書いてあるものだと研究者も含め欲しがるやつは多いはず。これをどこで手に入れた?」


「なんだなんだなーんだ君が持ってるのはその程度の知識か。ダンジョンからは日々いろいろなものが出てきているから文字の書かれた、それこそ本なんかも続々と見つかってきてる。これくらいの文字数ならそこまで価値がないのさ」


「価値がないとはいっても金貨くらいの価値は余裕であるはずだ」


「ええ!?そんなにするんですか。それにしても見たことがないのにサブレさんはよくこれがエニグマだとわかりましたね」


「それくらい簡単に分かるさ、ほら見てみろ」


 そういってサブレさんはエニグマを僕に手渡してくれた。


「絵の部分は分かるが文字のほうは全く分からない文字で書いているだろ。かといって作り自体はいい紙を使って作っている。裏面に書かれている小さい薔薇の模様も細部まで書き込まれている。文字が読めない以上カードゲームとしては使えないし、いらずらにしては金がかけられすぎている」


「本当にきれいに薔薇の模様が書かれていますね。これなら金貨と言われてもおかしくない気もしてきました」


「おやおやおかしいなぁ、おかしいなぁおかしいよぉ」


「何がおかしいんだ、間違っているってことか?」


 仮面の奥に見える口が大きく吊り上がっているのが見えてゾッとした。


「間違ってない、説明自体は間違ってないよ。けど君は間違っている。君には分かるはずだよサブレ君。君には読めるはずだよその文字が、はなから決めつけるのはよくないよ。ほらよく見てごらんよ、ちゃんと解読できるはずだよ」


 その言葉に釣られて手に持ったカードの文字を呼んでみようとしたけど僕には何を書かれているのかは一文字も分からなかった。


「ほら呼んでごらんよ絵の上に一行だけ文字が書いてあるだろ?読んでみなよほらほらどんどん読めるようになってくるはずだ、わかるはずだ、わかっていたはずなんだよ君は」


 仮面の男が放つ異様な雰囲気の恐ろしさに、僕は無意識のうちに一歩下がっていた。


「កាអុិតុអឹអារឹសិーនឹរឹធានណុម៉ាហ្កុណុម៉ាហ្」


 感情の無い声でサブレさんが言った。


 その途端にエニグマが強烈な光を放ち始めた。



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