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61話 -葱-

 


 思わず駆けだした僕の左側にサブレさんがいるのに気が付いた。


「悲鳴は聞こえたんですけどウミカはどこに向かって走っているんでしょうか」


「わからん。けど追っていけば分かるだろ」


「あれ?」


 ウミカが露店の方に大きくカーブした後で違う方向に向かって走っていくのが見えた。


「なんでわざわざあっちに行った?」


 サブレさんも僕と全く同じ疑問を持ったようだ。


「ウミカが手に何か持ってますよ、武器じゃないですか?」


「武器?いや、あれはどうみても」


 ウミカはどんどん人気のない方向に向かって走っていく。僕たちもそれを追いかける。あの悲鳴に向かってウミカが走っていっているのは間違いないと思うけどどこであの悲鳴が鳴ったのかをちゃんとわかって走っているのだろうか。


「あっ路地裏に」


 建物と建物の間の細い道にウミカは入っていった。まだ午前中で太陽も出ているというのに闇の中に入っていったように見えるほどそこは暗い。


「何か事件が起きそうな場所だな」


 サブレさんが言った直後に男の人の悲鳴がさっきより大きな音で聞こえた。


「なにかあったんだ。急ぎましょうサブレさん、もしかしたらウミカに何かあったのかもしれません」


「いや、さっきの悲鳴は男のだった。少なくともお前の妹は無事に違いないから安心しろ。だがもし死んでたとしてもしょうがない、その時は諦めろ」


「そんな縁起でもないこと言わないでくださいよサブレさん」


 サブレさんは笑っていたので冗談だと思うけど僕にとってそれは想像したくないくらい恐ろしいことだ。


「あ!」


 路地裏に入った途端、凄い光景が僕の目に飛び込んできた。


「アボアゴアゴアアアアァァ………………」


 倒れた男の人が地面を転げまわっていて人間とは思えないような苦しみの声を上げている。


「アアアアアァアア………………」


 その左目には見覚えのある一本の野菜が突き刺さっていて、その根元からどす黒い血が流れ、男の人がそれを抜こうとしている。


「あれって………」


 根元が白くて二つに分かれている先端は緑色。


「ネギだな」


 さっきウミカが遠回りしてまで取ってきたものの正体が判明した。


「ウミカ!」


 ネギが目に突き刺さった男の人の向こうにはウミカの姿。


「この野郎がなんだいきなりうをらああああああ!!」


 懐から大きなナイフを取り出したふたりの男の人がウミカに向かって襲い掛かっていた。


「モルン待て」


「どうしたんですかサブレさん、助けに行きましょうよ」


 もしかしてサブレさんはウミカのことを見殺しにしようとしているんじゃないかと思った。ウミカとは意見が合わないから、だからーーーー


「まずはあれを何とかするのが先決だ」


 サブレさんが指さす先には、ネギが刺さった男の人と争うウミカたちの間でうずくまって震えている女の子がいた。


「お前の妹の動きを見ろ。あそこから引き離すようにしているんだ、つまりこれを助けろっていうことだ」


「あ、そうか。そういうことなんですねさすがはサブレさんです」


 あまりに衝撃的な光景の連続過ぎて見えていなかった。サブレさんのことを疑ってしまった自分を恥ずかしく思う。サブレさんは僕と違って冷静にこの状況を理解できていたんだ。


「大きい通りのほうに連れていけば大丈夫だろ。もしお前の妹が危なそうだったら手を貸してやるからお前はその子供を連れて行け。まともに戦ったことのないお前がいても役には立たないからな」


「わ、わかりました」


 僕は震えている女の子のもとへと向かった。




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