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58話 -後始末-

 


「すいませんちょっと待ってください」


 少年はよろよろ歩いている3人の背に向かって声をかけた。


「うわぁ!?あいつの仲間だ!追いかけてきやがった」


 振り返った男たちは叫んで逃げようとしたが走ることができず、ひとりはバランスを崩して倒れそうになり、ひとりは転び、ひとりは固まって動けなくなっていた。


「来るな!来るなぁーー!」


 恐怖に染まった目の男たちの目の前に少年はすごい速さで走ってきて3人の男たちの目の前でピタリと止まった。


「何しに来やがった!また俺たちを痛めつけに来やがったのか!」


 痛そうに足を抑えているツンツン頭の男が言った。


「僕はそんなことしません、そういうつもりで来たわけじゃないんです」


 3人の男たちの体から緊張が少し抜けた。それは目の前にいる少年が普通の少年に見えたから。走るスピードは普通とは言えなかったが酷いことを考えているようには見えなかった。


 服装も高すぎず安すぎずな感じで普通だし、口調も高圧的な感じもない。顔もある程度整っていて知性を感じさせる。


「じゃあなんだってわざわざ追いかけてきたんだ」


 それでも用心しながらツンツン頭のギャラードはファイティングポーズをとった。


 足はひどく痛むがいま戦えるのは自分だけだ。ゴメスは首を絞められていたせいで顔色が今だにおかしいし、ロペスはただ足を拘束されていただけだが怯えてしまって歯がカタカタ鳴る音がはっきり聞こえている。いざというときには自分がやるしかない。


「実はさっきのことなんですけど………えーと、サブレさんも実は少し反省しているみたいでして」


「少し!?少しだと!!」


「すいません。怒らせるつもりはなかったんですけど……僕はあまり事情をよく知らないので、気に障る言い方をしてしまって本当にすいませんでした」


 少年は申し訳なさそうに頭を下げた。


「怒らせるつもりにしか思わねぇよ!」


「ギャラード、ギャラード、頼むから怒鳴らないでくれ」


 顔色のおかしいゴメスが肩を軽く叩いて落ち着かせようとしてきた。そうだった、相手を刺激するのはよくない。こいつはあのイカレた魔術師の仲間だ。


「なんだ、なにしにきたんだ」


「少しですけどお金を預かってきたんです。これで少しでも許してもらえないかと思いまして」


「金?金だと?」


 少年がポケットから掴んで取り出したのは一枚の金貨だった。


「これをあの魔術師が?」


「ええ、そうなんです」


 少年の言葉が少しもごもごとしていることに、金貨を一心に見つめている男たちは気が付かない。


「サブレさんは本当はそこまで悪い人じゃなくて優しいところもあるんですけど、目の前で自分が買った土地にごみを捨てられているのを見て、ついカッとなってしまったみたいなんです」


「金貨だ、おい、どうするゴメスにロペス」


 思わぬ展開に戸惑っているギャラードだがふたりの幼馴染からは金貨が欲しいという雰囲気を感じ取った。


「金貨………」


「そ、そうだな………どうする?どうするよ」


「受け取ってもらえると嬉しいです。サブレさんもやり過ぎてしまったとは思っていると思います。ただ持っている力が強すぎるのでちょっとだけ力を入れたつもりでも普通の人にとっては大怪我とかになってしまうんです」


「あれがちょっと力を入れただけだと?」


「そうなんです。とんでもなく強い魔物だと思ってもらえればいいと思います。向こうはじゃれているつもりでも普通の人間は大怪我してしまいます」


「ほんと信じられねぇぜ、なんなんだあいつは。同じ人間だっていうのにこの強さの違いは不公平すぎるだろ。こっちは3人もいるってのに何にもできねぇただただやられる一方だったぜ」


「すいませんけどそれじゃあこれ」


 気が付くとギャラードは少年に左手を掴まれていて、手のひらの上に金貨を置かれていた。


「僕はもうこれで行かせてもらいます」


 ペコリと頭を下げた少年が砂煙を巻き起こしながらあっという間に消えていった。


「あいつも魔法使いか………」


 呟くように言ったギャラードの声には持たざる者の悲しさがあった。


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