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57話

 


「こいつらが俺の土地にゴミを捨てたから注意しただけだから心配するなモルン」


「何が注意だふざけんな!」


「なんかその人すごくグッタリしてますけど」


 10年くらい遊ばれた布の人形のおもちゃみたいに土の上に倒れているもじゃもじゃ頭の男を見たモルンが心配そうに言った。


「それはいつまでも謝らないからだ。俺だって悪魔じゃないんだから一言すいませんでしたと言って捨てたごみを拾ってくれれば、もうするなよとなって終わってたんだ。それをいつまでたっても謝罪ひとつないもんだから、いくら俺でも腹が立ってくるだろう」


「なるほど、そういうことだったんですね」


「なるほどじゃねぇ!そいつがいきなりとんでもない速度で突っ込んできて訳も分からないうちにゴメスを宙づりにしやがったんだ。そんでもって俺らが引き剥がそうとしたら足を固められちまって一歩も動けなくなったんだ。それなのに何が謝罪だ、なにがなるほどだ!ふざけんな!」


「えぇ………僕も怒られるんですか」


「さっきからぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうるさい奴だな」


 サブレが指を鳴らすとふたりの男を拘束していた土が外れた。足元には小さな土の山ができていて、とても大の男を拘束していたとは思えないほど普通の土に戻っていた。


「放してやるから捨てたごみを拾って失せろ」


「くそっ、なんで俺たちがこんな目に。おいゴメスしっかりしろゴメス!」


「その人死んでないですよね?」


「全然大丈夫だろ、俺だってそこまではするつもりはない。あんまり力を入れていなかったからな」


「でもなんか……目が真っ白ですけど」


「ぶふぁ!」


「ゴメス!ゴメスが息を吹き返したぞ、何を突っ立ってるんだロペス手を貸してくれ」


 足を拘束されていたうちのひとりの男は目を大きく開いたままガタガタと震えていたがようやく我に返ったようで仲間のもとへ駆け寄った。


「どうだこの土地、なかなかいい広さだろ?」


「給食場はここに決めたんですね。確かに広くていいんですけど何も建物がないんですね」


「ああそれは別にいいんだ。ただ飯を作って配るためだけの場所だからな。雨風が凌ぐだけの建物で十分だからあとでチャチャっとしたものを作ればいい」


「なるほど、さすがサブレさんです。もうどんな感じでやっていくかをちゃんと考えているんですね。僕も何かお手伝いしたいんですけど何をどうしたらいいのかさっぱりイメージできなくて」


「俺だって思いついたまま適当にやってるだけでそこまで具体的には考えてない。ところで、ここはいくらだ?」


「は!はいっっ!!」


 不動産会社社長のネルネノは飛び上がった。


「この土地はいくらかと聞いているんだが」


「そうです、この土地です。この土地ですが800万ゴールドでございます」


「800万か……思ってたより安いな」



 ネルネノは焦った。


 値段を言い間違えてしまった。作戦としては最初に1200万ゴールドを提示するつもりだったのだ。普通はここから値引き交渉になるので最終的に1050万ゴールドで決着をつけるつもりだった。


 もし相手がそれ以上言ってきてもなんとか耐えて最悪980万ゴールド、もしも向こうが800万ゴールド以下の金額を言ってくるようであれば例え特級宮廷魔術師であろうとも断ろうと思っていたのだ。


 怖すぎて最初から800万ゴールドと言ってしまった。


 パニック。


 さすがに今から1200万ゴールドというのはとても無理だ。あのモルンという少年のおかげで雰囲気はだいぶ和らいだが、本物の魔術師の力を間近で見て心の底から恐怖を感じた。


 仕方がない、これは自分のミス。諦めるしかない。恐怖の化身というべき相手にいまから400万ゴールドを上乗せする勇気は今の自分にはとてもない。問題はここからさらに値引きをしろと言われたらどうするか。断れるだろうか?拒否できるだろうか?


「イカレた魔術師め!覚えてやがれーーー!」


 ゴミを捨てた3人の男たちが、宙吊りにされた男に残りの二人の男が型を貸してヨタヨタと走っていくのを見てネルネノは驚いた。


 よくあれだけの恐ろしい目にあったというのにまだそんなことを言えるものだ。この魔術師が怒り狂ってまた同じ目か、それ以上の目に合わされるとは思わないのだろうか?ネルネノにはとても理解できなかった。


「ここに決めた。800万だな、すぐにもってこさせよう」


 男たちの後ろ姿を見ていると横から声が聞こえた。


 良かった。値下げ交渉に挑まなくて済む。ネルネノはホッと胸をなでおろした。




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