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55話

 


「スラム街に近い場所の土地ですか?」


 不動産会社のネルネノは驚いた。


「建物がない空き地でもいいんだがあるか?」


「なにか事業をなさるつもりですか?」


「まあそんなものだ。厄介な仕事を引き受けてしまってな、かなり面倒なんだが形だけでもやっておかないともっと厄介なことになりそうだからな」


「そうですか……。スラム街の近くでという条件であるのは値段の安さを重視してのことでしょうか」


「違う。やろうとしていることがスラム街の住人を対象にしたものだから近くないとやりにくいからだ」


「そうですか。差し出がましいのですがスラム街の住人を相手に商売をなさっても儲からないと思うのですが」


「もちろんだ。金のないところから金をとろうとは思っていない。いくら商売をしたことがなくてもそれくらいのことはわかっている」


 ネルネノはほっと胸をなでおろした。目の前にいる少年といっていい人物とはつい最近、物件を契約したばかりだ。そしてその時知ったのだが相手は特級宮廷魔術師だ。ネルネノのような一般人にとっては恐怖の対象でしかない。


 もし新しい事業が失敗した時に、場所が悪いからだとかいう因縁をつけられたのではたまったものじゃない。普通の魔術師でも十分怖いが特級宮廷魔術師は魔術師の中でも超エリートだ。手をひらひらさせるだけで自分はあっという間に肉塊になってしまうに違いない。


「わかりました。何件かご要望に沿えそうな物件があったと記憶していますので今資料をお持ちいたします」



 〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●〇●




「よし!ここでいい」


「え!もうお決めになられたのですか?まだあと6件ほど物件はありますが」


「いやもうここでいい。さっきのところよりも広いし建物が何もないのが逆にいい」


「そういわれましてももう少し見ていただいた方が」


 王都で不動産会社を経営しているネルネノは引き下がった。本来は身分の高い人間に対してあまり自分の意見を言うのはよくないがいまは言うべき時だと思った。


 これは不動産屋にはよくあること。依頼者が物件を見ることに飽きてしまったパターンだ。それにしてもこのサブレという依頼人は飽きるのが早い。まだここは2件目だし、しかもついてすぐに決めてしまった。


 スラム街に近いところである程度の広さを有する土地、家はなくてもいいという変わった条件を出してきた珍しい客だがあまり熱意を感じないのは気のせいだろうか。土地という高い買い物をしようとする人間は少しでもいい条件のものを探そうとするものだ。


「もちろんちゃんと問題のない土地なんだろうな?」


「といいますと?」


「マフィアの事務所の隣だとか雨が降ると水がたまるとか、やたらと日陰だとかそういうのはないだろうな」


「私どもとしてはそういったことを聞いたことはありません」


「そうか、だったらいいんだが昔聞いたことがあるんだ。悪質な不動産業者が二束三文の土地を素人に高く売りつけるという話をな」


 ネルネノは思う。だれが特級宮廷魔術師にそんなことをするものか、と。相手は簡単に人間を肉塊にできるような力をもっている。それに貴族と同等の権力を国から認められている特別な相手。


 本当だったら今この場に立っていたくないくらいだ。しかし従業員の誰もこんなつらい役回りをしたくないだろうと思って自分がやっている。従業員にわざわざ確認はしていないがしていなくてもビンビンと社長が案内してくれ、という雰囲気を感じて仕方なくやっているのだ。


 誰がそんな相手に詐欺なぞ仕掛けるものか。契約が成立して入って来る金を喜ぶよりもいまはただただ穏便にこの場を収めたいだけだ。


「以前にご案内させていただいた物件になにか問題がありましたでしょうか?」


「そういうわけではない、本人はあの家に満足していると言っていた。まぁただなんとなく思いついただけだから気を悪くしないでほしい」


「そうですかわかりました。もし契約が成立しましたら辺りに転がっているゴミはすべて処分させていただきますのでご安心を」


「確かにゴミが多いな」


「なにぶんスラム街に近いものですので治安はそれほどいいとは言えません」


「そうか、まあ仕方ないな」


 ネルネノは不思議に思った。サブレが少し考えるような様子を見せたからだ、特級宮廷魔術師ならばスラム街のチンピラなんか全く相手にしないのではないかと思っていたから。もしかして自分が考えるよりも特級宮廷魔術師というのは力を持っていないのだろうか?


「はあっ!?」


 魔術師が突如として大声を上げた。



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