54話 ーバイトー
お腹すいたなぁ。
「そうだ、いいぞ。隙間なく骨を詰めていけ」
椅子に座ったダクゾさんが僕の作業をつきっきりで見ている。さすがに床に倒れていたままだとかわいそうなのでダクゾさんを抱き起して椅子に座らせた。僕一人じゃ難しいかな、と思っていたけど案外簡単にやることができた。どちらかというと耳元で「痛い」とか「もっとゆっくり」とか大きな声で言うダクゾさんに苦労したくらいだ。
「今日も下品な味」
「食べれます」
おおよそ美味しいものを食べてるとは思えないような感想だけどリソンさんは勢いよく食べているし、ウミカも普通に食べている。残念なことに僕はスープの仕込みが終わってからしか食べさせてもらえないようだ。
ゴウメン。どんな味なんだろう、気になる。僕はゴウメンというものを一回も食べたことがない。それなのにリソンさんとウミカの分を作ってスープの仕込みもしている。こんなこと普通あるかな?
「よし!そしたらその鍋を使って寸胴に水を入れていけ。重いからってチマチマやってたら時間がかかってしょうがねえし逆に疲れちまうから、水はいっぱいに入れていけ」
普通に家庭で使われているくらいの大きさの深い鍋に水が入った樽から寸胴へ水を移し替えていく。たぶん寸胴がいっぱいになるまで水を入れるんだと思う。
「おしおし、いいペースだ。もう半分くらいは入ったか、手が疲れただろう。ここらへんで少しだけ休んでもいいぞ。初心者が最初に音を上げるのはこの作業だからな。まだ子供にしては相当頑張ってるぞ、まさかここまでできるとは思ってなかった」
「いえ、全然大丈夫です」
僕の手は全然疲れていないのでどんど水を入れていく。
「おい大丈夫か、無理すんな。俺だって毎日やってても途中から手が痛くなってくんだ、まだ客もいねぇんだから無理することはねえ」
「本当に大丈夫です」
ちょっと前の僕なら出来てなかったんだろうけどあれ以来僕の体は前までとは全く別のものになってしまったかのように強くなっている。だから手は全然疲れていない、それよりもこの作業を終わらせて早くゴウメンを食べてみたい。一体僕は何を作っているのか早く知りたい
「休憩なしで………お前すげぇな」
あっという間に寸胴は水でひたひたになった。
「あとはそこにある野菜を切って寸胴の中に入れればいい。こいつはスープの臭みを取っていい匂いをつけてくれるんだ。それが終わったら食っていい、がんばったからある分いくらでも食ってくれ」
「ありがとうございます」
ようやく僕も生まれて初めてのゴウメンを食べれそうだ。
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「おいしいです」
「そうだろ!うまいだろ!この味を出すために俺は死ぬ気で働いてきたんだからな」
スープはだいぶ濃厚だけど嫌な感じはないし、太い麺もこのスープに合っていてどんどん食べれる。かなりお腹が減っているからというのもあると思うけど満足感はすごくある。
「男の人が好きそうな味ですね」
「そうよ!俺のとこの客は男ばっかりさ。みんなわしわし食って満足そうな顔をして出ていくぜ、常連もいっぱいいるんだ」
「癖になる味ですね」
「おうよ!おれのゴウメンは食えば食うほどもっと食いたくなるんだ、すげえだろ」
「はい」
「本当は肉があればもっとお前のことも満足させてやれるんだモルン」
「おいしそうです。今度また来ますよ」
「そん時はうんとサービスしてやるから絶対に来いよな」
「それと………モルン、おめぇよお、、」
ダクゾさんが何やら言いにくそうにもごもごしている。なんだろう、いままでずいぶんとはっきりものをいう人だったのに急に。
「どうしたんですか?」
「おめぇ、俺の店でバイトするきはねぇか?」
「え?」
「いや、おめぇの働きぶりは今まで来たバイトのなかでもかなりいい。普通のやつがへばるような仕事でも簡単にやっちまってる。さっきバイトが逃げたって話はしただろ?さすがに俺一人だときついと思ってたところにこの腰だ。何とか手伝ってくれはしねぇか」
「急に言われても………」
僕はサブレさんに色々助けてもらってきたので、その恩返しというわけじゃないけどサブレさんに声をかけてもらったらできるだけ答えるようにしている。ほとんどは一緒に話をするくらいしかしていないけど。このお店で働くことになったらそれができなくなってしまうのが困る。
「バイトが見つかるまでの間だけでもいいんだ、頼むよ。お前は力もあるし俺の話をよく聞いてその通り作業してくれる、この店は俺が店を始めてから一番の逆風を浴びている、ここでお前みたいなやつをみすみす逃すなんてことできやしねぇ。何も毎日出てくれって言ってるわけじゃねぇんだ。なあ頼むよ!」
「すいませんけど僕にもやらないといけないことがありますので。そう言ってもらえるのは嬉しいんですけど」
「そこを何とか考えてくれよ頼む!バイト代はしっかり出すし賄も出す。せめてスープづくりだけでもなんとかならねぇか?あれを客にやらすのはさすがに無理だから頼むよ、ここで出会ったのも何かの縁だ、俺だって厳しいことは言わねぇから、本当にバイトが見つかるまでの間だけでーーーー」
食べ終わってふたりのやり取りを見ていたウミカは、モルンの性格から考えて結局は多分押し切られてしまうだろうな、と思った。




