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53話 

 


「そうか腹が減ったか、腹が減ってるやつに食わせるために俺はゴウメン作りに命かけてるんだから食わしてやりてえ。しかし俺は自力じゃ立ち上がることもできねえ有様よ」


「無理ってこと?」


「えぇ!」


 ウミカが大きな声を上げた後で顔を赤くして僕の後ろに隠れた。


「安心しな、この人数だけなら昨日の分のスープがまだ寸胴のなかに残ってるからそれを温めれば全然問題ない。麺もあるから茹でれば食える、残念ながら肉は全部無くなっちまってるがな」


「肉なし。肉だけがおいしいのに」


「おいちょっとまて聞き捨てならねぇな!肉だけってのはどういう意味だ、だけってのはよ!俺はスープにも麺にも命かけてんだ。それなのに肉だけってのは許せねぇ!テメェ今まで一体どういうつもりでうちの店に来てたんだ。肉だけがうまいと思ってきてたのかよ!」


「間違えた」


「いーや今の言い方には悪意を感じた。あのいい方はいつも思ってるやつにしか出てこねぇ言い方だった」


「スープの入った寸胴を温めて麺を茹でればいいんですよね」


 このままでは長くなりそうだと察したモルンがすかさず割って入った。


「おおそうだ、魔道具の使い方は俺が教えてやるからその通りにやれば大丈夫だ。それと………悪りぃんだが、だれかもう一個の寸胴のほうにギューギューモウモウの骨を入れてくれねぇかなぁ。今日の分のスープがなくちゃ商売にならねえ」


「今日も営業するつもりなんですか?さすがに休んだ方がいいですよ、いまだって全然立ち上がれてないじゃないですか」


 教えてもらった通りに魔道具に点火スイッチを入れたモルンが言った。



「休むなんてあり得ねぇ!俺は自分の店を持ってから一日も休まずにゴウメンを作り続けてるんだ。たかだか腰が少し痛いくらいで休んでたまるか!」


 言葉だけは威勢がいいが相変わらず寝たままの店主を見て、モルンはいくらなんでもそれは無理じゃないかと思う。


「動けないくせに」


「何言ってんだ、俺が動けなくたって麺とスープがありゃあ飯を食わすことはできる」


「どうするつもりですか?」


「客にやらせりゃあいいんだよ。やることはそんなに難しいことはねぇ、今みたいに俺が教えてやりゃあ十分にできる」


「無謀」


「やって出来ねぇことはねえ!いいから寸胴に骨を入れてくれ。スープを取るのには時間がかかる。だからさっさと取り掛からなきゃならねぇ。んで骨を入れ終わったら次は臭みを取るために野菜を入れーーー」


「嫌」


「何が嫌だ!ここまでして飯を食わすことに命かけてる俺に対してよくぞそんなことを言えたな。いったい何が理由で嫌だってんだ」


「手が臭くなる」


「何言ってやがんだお前!たかがそれくらい洗えば済む話だろ」


 リソンの言っていることはモルンには理解できる。テーブルの上に山と積まれている骨は解体したてという感じで油でギトギトしているし肉もついている。きっとあれを触ったら一日中生臭くなってしまうだろうと簡単に想像がつく。


「嫌」


「テメェ前の前の前のバイトと同じこと言ってんじゃねぇ!」


「嫌、嫌、嫌」


 店主のダクゾさんがいくら大声を出してもリソンさんの表情からは不屈の決意を感じる。たとえ一日中大声を出したところで決意は揺るがないだろう。そもそもいくら大声を出しても床に寝ながらでは迫力不足だ。


 僕たちはお洒落な朝食を食べに来たはずだ。それがなぜこんなことになっているのかは分からないがこうなってしまった以上は仕方がない。


「僕やります!」


 僕は覚悟を決めて「1日両手生臭さコース」を受け入れることにした。



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