47話 -勘違い-
ロクサンが料理を平らげたところでサブレは話し始めた。
「まず最初にあんたに興味を持った理由は、うまい肉が食いたいと思ったからなんだよ」
「肉、ですか?」
「俺も食べてみたがあんたの肉の下処理の仕方は実に上手だ」
「ありがとうございます」
「ほかの屋台でも一度ホーンラビットの肉を食べたことはあるが臭くてとても食えたものじゃなかった。しかしホーンラビットはホーンラビット、肉の質としては下等だ。それならもっと上等といわれている肉をあんたに下処理させれば相当うまい肉が食えるんじゃないかと思った、それで話をしてみようと思ったんだ」
「はぁ………」
「ホーンラビットばかりをとって来るということは冒険者としての実力は大したことがないから普通にやれば難しいだろう。俺の知っているところでは下処理というのは動物が死んでからすぐにやらければいけないはずだ。しかし上質と言われる肉を持つ魔物はホーンラビットとは比べ物にならないくらい強い力を持っているからだ」
「その通りです」
「だけどそれなら力のある冒険者を雇えばいいだけのことだと思った。そうすればそいつらが倒したらすぐにあんたに下処理をさせることができる。要は金の問題だ、普通ならそれだけやったら値段が高くなりすぎてとても採算なんか取れないだろうが今の俺は金は持っているから問題はない」
「な、なるほど、そういう………」
「そこでギルドに行ってみたんだがあんたはまだ戻ってきてないという。そこであんたの話を集めてみたんだ、もし面倒くさそうなやつなら俺が直接話をするんじゃなくて間に誰かに入ってもらったほうがいいと思ってな」
「それで私のことをお調べになったんですね」
「そしたらどうだ、お前は自分のことをどう思っているのかは分からないが、周りの人間はお前のことを冒険者としてはずいぶん変わった人間だと思っていたんだ」
「私は目立たないようにしていたつもりだったんですが」
「お前はおかしな行動をし過ぎている。さっき言ったことだってお前を待っている間の時間ですぐに集まったんだぞ。少しの金を渡してやったらすぐにだ」
「そうでしたか、すいません」
「時間もあることだしお前というやつは面倒臭そうなやつでもなさそうだったので、俺は考えることにした。お前はなぜそんな変な行動をとるのか。まずソロで冒険者をやっているのはおかしい、よほど自分の命に執着がない限りはパーティーを組むのが普通だ。そしてほかの冒険者と違って毎日獲物をとってこれるのもおかしい。なぜそんなことをするのか、なぜそんなことができるのか、それは特別なスキルを持っているなら辻褄が合う、そう思った」
「はい……」
「特殊スキルを持っている人間がそれを隠すのはよくあることだし、普通の人間ができないことをできているということは、普通の人間が持っていないものを持っているということだ。断定できるほどの推理じゃないがとりあえず矛盾はしない。この時点で俺の目的は二つになった」
「ふたつですか」
「ひとつはうまい魔物の肉が欲しいということ、そしてもうひとつは自分の推理が当たっているか確かめることだ」
「ちょっと待ってください、それならなぜ先ほど一般人の特殊スキル所持者は国か貴族の管理下に置かれるなんて話をしたのですか?あの話を聞いた途端に私はもう背筋が凍る思いでした。法律で決まっているから無駄な抵抗はやめて自分の命令に従え、そう言われている気がしたんです」
「俺がもしそうするつもりなら無駄な抵抗はやめろ、なんて警告をわざわざする必要がない。抵抗されようがホーンラビットしか倒せないような実力を持っているやつなんか拘束するのは簡単だ。それにそんな奴をわざわざこんないい店に連れてくるか?冒険者ギルドで待ち構えてとっ捕まえればいいだけのことだ」
「言われてみればたしかにここのお店はそんなことをするために使うようなお店ではないですね」
「俺がわざわざあの話をしたのはあんたに気をつけろよ、というためだ」
「気を付ける?」
「俺がちょっと調べただけであんたのおかしな行動はザクザク出てきて、もしかしたら特殊スキルの所持者かもしれないと推理した。それならほかのやつも気が付いているかもしれない、そう考えるのが当たり前だろ」
「はっ!」
「はっ!じゃないぞまったく。あんたは見つかったら拘束されるかもしれないのに目立つ行動を結構している。今だってそうだ、大声を上げたことで周りから注目されているんだぞ」
「すいません」
「あんたが誰かの管理下に置かれたら俺が仕事を頼むことはできなくなる、だから気をつけろよ、という意味で言ったんだ。もしかしたら知らないのかもしれないと思ってな」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「落ち着いたところで仕事の話をしたかったからこの店に連れてきた。あとはあんたが本当に特殊スキルをもっているのなら、それが何かを知りたかった」
「特殊スキルを……」
「簡単に言わないだろうとは思っていたが、もし敵になった場合には対策を考えられるし、そうじゃないなら仕事を頼むこともできる。そう思っていたんだ。それなのに急にいきりたちやがって」
「すいません………すいません、そうだったんですか、すいません」
極度の緊張状態から安心したロクサンは、急激な疲れに襲われ椅子のうえでぐったりとしていた。
「今日は相当疲れているようだから返事は後でいい、肉の仕事の件を受けるかどうかを考えておいてくれ。報酬はそう悪くないものを出すから」
「はい、わかりました」
支払いを済ませて去っていくサブレの後ろ姿を見ながら、今のこの疲れは人生で一番の疲れかもしれない、そう思った。




