42話 -冷たい戦い-
「ウミカ、サブレさんがお見舞いに来てくれたよ。ここの入院費もサブレさんが全部出してくれたんだ。ウミカからもお礼を言って」
「ありがとうございます。来ていただいてうれしいです」
少しの時間をおいて喋ったウミカの声は自分が知っている妹の声じゃないみたいに固かった。
「………………………」
サブレさんは何も言わないでウミカをじっと見ている。ウミカもサブレさんのことをじっと見ている。
何だろうこの空気感は。今までに感じたことがない空気感だ。こんなことになるなんて思わなかった。サブレさんはウミカが自分のことを恨んでいるに違いないと言っていたけど、それは間違いじゃないんだ。
ウミカのあの信じられない動きも、今のこの状況も全部がサブレさんの言っていた通りの状況になっている。
「ん?どうしたんだふたりとも、何かあったのか?」
「いや、なにもない」
リシュリーさんも様子が変だと思ったみたいだ。
「それよりもサブレ聞いてくれ。このウミカという子はものすごく才能があるぞ。私も道場でたくさんの人を見てきたがこの子はその中でもダントツで才能がある。もしかしたら私よりもあるかもしれない。魔力の量とコントロールが素晴らしいんだ」
「そうか、なるほどな」
嬉しそうなリシュリーさんに比べてサブレさんの表情は固い。
「ところでサブレ。以前言っていた恵まれない人たちに何かしてあげて欲しいというのはどうなってるんだ?」
「そのことか、それなんだが食べ物を配ろうと思っているんだ。もちろん金はとらない。貧しくて食べるのに不自由している人限定だがな」
「おおそうかそれはいい!それはいいぞ!」
「いまは冒険者ギルドに引退した冒険者で料理人になってもいいやつという条件で人を探しているんだがなかなかうまいこといってない」
「引退した冒険者?普通に料理人じゃダメなのか」
「なにせタダで食べ物を配ろうとしているからな。恐らくは混乱が起きるだろう、俺にもよこせとかいう金のないチンピラが集まってきたりとかな。だから混乱を避けるためにも少しは戦える奴がいいと思う。なにも店をやろうというわけじゃないんだから味よりもきちんと困っている人に料理を届けることが大切だ」
「そういう奴らを黙らせるために引退した冒険者を使うということか」
「現役の冒険者が毎日毎日スラム街の住人のために大人しく料理を作って配るだけの仕事は退屈だろうからな。その点、引退した冒険者ならもう冒険者としての活動はできないからやってくれるんじゃないかと思ってな、よほどのたくわえがない限りは働かなきゃ食っていけないわけだし。ある程度年を取っていても飯を作って配るだけだからできるだろ」
「さすがはサブレだ!まさかそこまで考えているとは」
「労働条件としてはそれほど悪くないもの出しているから人がきておかしくないんだがな。なんだか時期が悪いみたいだ。それと冒険者時代に評判の悪かった奴は全員弾くように頼んでいるからそのせいもあるかもな」
「そうか、そうだったのか私としては一刻も早く困っている人たちを助けてあげたいんだがな」
「リシュリーが受け取るはずだった金はかなりの金額だから、そう悪くはならないはずだ。特級宮廷魔術師の証であるバッジもかなり役に立つと思う。何をするにしても一般人が言うのとは物事の進みやすさが全然違うはずだ」
「そうかそれを聞いて安心した!私にできることがあったら何でも言ってくれ。言い出しっぺは私だから私にできることは何でもするぞ」
サブレさんとリシュリーさんは話しているが、サブレさんとウミカが作り出している緊張感は無くなっていない。サブレさんの意識のほとんどはウミカに向けられていて残りの少しの意識だけでリシュリーさんと話しているみたいに感じる。
僕のせいだ。
僕がサブレさんにここにこようなんて言ったから。僕がサブレさんに大丈夫ですなんて言ってしまったから。
今のこの状況は僕のせいだ。




