41話
王立病院の中庭で僕は自分の目を疑った。
「そうだ!そこでグッと踏みこんで手をズバッとだ!」
妹のウミカが入院患者用の服を着たまま激しい運動をしている所だった。
「実に筋がいい!段々と踏み込みが鋭くなってきたぞ!」
妹の隣にはリシュリーさん。騎士の中でも一握りのエリートしかなることができないという特級騎士だ。そのリシュリーさんに指導を受けながらステップを踏みながら剣を突き込むような動作をしていた。
「おいモルンこれは一体どういうことだ……」
サブレさんの顔を見ることができない。
「お前はさっき俺に言ったよな。妹は体を動かすのが得意じゃないって」
「はい……いいました」
「俺の目には完璧に体を動かすのが得意な奴の動きに見えるんだ。俺は間違っているのか?モルンよ」
速い。確かに妹の動きはとても速かった。
「モルン、お前言ったよな。妹が本当に魔法を使えるようになっているかどうかわからないって」
「はい………いいました」
「あの動き。俺が見る限りあれは普通の人間が生み出せる速度じゃない。完全に魔力を使った動きだ。お前は俺を無意味に安心させるために嘘をついたのか?」
「いえ、そんなつもりは………」
ウミカの踏み込む力が強すぎてカチカチに乾いて固くなっている土が捲れあがっている。
おかしい。
ありえないはずのことが起きている。サブレさんがウミカを警戒するなんて変なことだと思っていた。だってウミカは普通の女の子で。自分が知っているのはご飯が食べられないせいで普通よりも体が弱っている姿だ。
それなのにあの動き。まるでサブレさんと戦った時のリシュリーさんみたいな動きだ。確かに普通の人間が生み出せる速度には見えない。こんなことことが本当に起きるなんて。サブレさんが言っていた通りのことが起きている。
「お!サブレじゃないか。なんでここにいるんだ?君は退院したものとばかり思っていたんだが」
「退院はした、したんだが今は具合が悪い。入院したくなってきた」
「何を冗談言っている。この病院はいつでも予約でいっぱいだ、大した病気でもない人間は入るべきじゃない」
「リシュリーはなぜこんなところにいる?どう見ても健康そうなんだが」
「もちろん私は健康だ。子供のころから一回も風邪をひいたことがないというのが私の自慢でな」
「それならなぜ」
「私の道場の門下生が魔物との戦いで入院してな。どうやら魔物の爪で受けた傷に悪い菌が入ったせいで危ない状態だったらしい。ずいぶん私になついてくれていたやつなので見舞いに来たんだ。残念ながらまだ目を覚ましていなかったがな。サブレも魔物と戦うときには気をつけたほうがいいぞ」
「リシュリーさん、お久しぶりです」
「たしかモルン、だったか」
「名前覚えていてくれたんですね、うれしいです。ところでウミカ、ウミカは何でリシュリーさんと一緒にいるの?」
「なんと!ウミカとモルンは知り合いだったのか」
「僕の妹なんです」
「そうだったのかそれは知らなかった。ウミカとは少し前に喉が渇いたので病院の売店で飲み物を買って景色のいいここで飲んでいたら、私の剣にウミカが興味を持っているようだったので話しかけたんだ」
「そうだったんですか」
「そうしたら退院したら剣を習ってみたいと言っていたのでな。私が型をみせてやったらウミカも真似しだしてな。それでいつの間にか私も熱が入ってしまって、いつの間にかいろいろ教え始めていたというわけだ」
「ウミカ、体は大丈夫なの?」
「うん。全然大丈夫だよ」
「それならいいけど入院中なのに激しい運動をするのはよくないんじゃないの?」
「そうだね、ごめんなさい。リシュリーさんの動きを見ていたらつい私も体を動かしたくなっちゃって。なんだか前より体の調子がすごくいいの。前までこんなに速く動いたりできなかったはずなのに」
確かに体の調子が良すぎるようだな………
呟くように言ったサブレさんの声は暗くて僕はとても怖かった。




