40話 -カッパみたいな服屋-
「え!?僕が選ぶんですか?」
モルンはちょっと飛び上がった。
「そりゃあそうだろう。お前の妹の服なんだからお前が選んでくれよ。俺は女児の服なんか全く興味ないから選べるはずないだろう」
大量に服が積み上げられた店頭でサブレは言った。
「そうはいっても僕もそこまで服のことは考えたことがないというか。破れていなくてそれで、季節によって暑かったり寒くなかったりしないといいなとは思いますけど」
「ダメダメダメそんなんじゃダメだ」
「そうなんですか?」
「当たり前だろ、何のためにわざわざ来たと思っているんだ。お前の妹の機嫌を取るために服を買うんだぞ。ちゃんと心の底から喜ばせて俺に対するイメージをよくしないと意味がないだろ」
「そういわれてもいままで服を選ぶっていうこと自体をしたことがないですから」
「なにかあるだろ明るい色の服が好きだとか、こういう柄のやつが好きだとか今までの会話を思い出せよ」
「うーん、なんか言っていたかなぁ………うーん」
いくら腕を組んで唸ってみても全く思い出せそうになかった。というかそんな会話自体が今までなかった気がする。ほんの少し前まで毎日ご飯を食べることで精いっぱいだったのだから。
「御子息様、さすがにそれは難しいと思いますよ」
前髪の短いカッパのような顔をした店主が笑いながら言った。
「御子息様?」
「いで立ちに気品があふれていらっしゃいますからすぐにわかりますよ。いいお家のご子息様なんでしょう?」
なぜこの店主はサブレさんがいいお家の人だとわかったんだろう?確かにサブレさんと一緒にいると食べ物を食べる時だったりにお金持ちの人だな、と感じることはあるけど今までの会話の中でそんな感じはあったかな?
「あ、そうか。サブレさんが着ている服を見て分かったですね?」
「よくわかったね、その通りだよ」
「そういうことか。始めてきた店なのになぜわかるのか疑問だったんだ」
「こちとらもう長年服屋をやっていますからね、着ている服をちょいと見れば質の高い低いなんてわかってしまいますよ」
「そんなにいい服だったのか、これは家族で行きつけの店で作ったものをそのまま持ってきたものだ。たしかに肌触りはいいと思ってはいたがそこまで考えたことはなかったな」
「生地がいいだけでなく縫製もしっかりしていますのでしっかりとしたお店を選ばれていると思いますよ。なかには値段が高いだけでそれに見合っていない服屋もありますからね」
「そういうものか」
「良かったですねサブレさん」
「なんか得した気分だな。それじゃあそんな服の専門家である店主に聞くがこのモルンより一回り小さい女児を喜ばせるにはどんな服を買えばいいんだ?」
「いやねぇ、それが難しい話なんでございますよ。服屋である私が言うのも何なんですが、女っていうのはわれわれが想像もできないくらいに服選びに時間と労力を使うものなんですよ。私たちから見ればほんのちょっとした違いでも向こうにとっては全然違うようでああだこうだすぐに言ってきて、さんざん時間を使って「いらない」なんていってすぐにどっか行っちまうもんなんです。私もそれに今までさんざん苦労させられましたよ」
「つまり分からないってことか」
「すいません。私が選んだのが気に入られなかったとかで騒動になるのが一番大変なんですよ、お金にならないのに手間だけはかかるし見る目がないとか言われて評判も下がるので。なのでこちらから選ぶということは一切お断りさせていただいてます、すいませんね」
カッパみたいな店主は深々と頭を下げた。
「それじゃあやはりモルンが選ぶしかないな」
「えーさっきの話を聞いたら僕が選んだものでウミカが満足させれるとは思えないんですよね」
「お前に無理なら俺にはもっと無理だぞ」
「そうなんですけど………ウミカにこの店に来てもらって選んでもらうのが一番いいと思うんですけど」
「そうか……それなら後でお前と妹で一緒に来て買うようにするか」
「サブレさんも一緒に来ませんか?」
「何を言っている。これ以上関係が悪化したらどうする、ここは遠くから贈り物で機嫌を取るのが一番だ」
やはりサブレさんはなぜかウミカに対して危機感のようなものを持っているようだ。
「絶対に大丈夫ですよ。服を買てあげると言ったら喜んでサブレさんのことを好きになると思いますし、一緒に行けばサブレさんから買ってもらってるんだということがもっとはっきりわかるのでいいと思うんですよ」
「そうか?うーん」
「それにさっきサブレさんはウミカが強力な魔法使いになると言っていましたけどそんなことは絶対にないと思うんですよ」
「なんでそう思う?本にはしっかりと命を落とす寸前から命を取り留めたものが後天的に魔臓を得た場合にはもともと持っていた人間よりも強力な魔法を使うことが確認されている、と書いてあるんだぞ」
「けどウミカは僕よりも全然力もないですし、走るのも遅いんですよ。僕もサブレさんとリシュリーさんの戦いを見ていましたけど、とてもあんな風に戦えるような感じじゃないです。むしろ同じくらいの年齢の女の子よりも体を動かすのは得意じゃないくらいなんです」
「そうか、まぁ言われてみれば少し本を信じすぎている所はあるかもしれないな。そうだな、確かに本に書かれてはいたが全員が全員そうなるとは限らないか。そういう事例があったというだけかもしれないな」
「それにまだ本当に魔法が使えるようになったのかもわからないんです。サブレさんがやっていたみたいにわかりやすい変化というのを一回も起こしたことがないんですから。それも含めて病室に見に行ってもらえませんかね?」
「確かに俺なら本当にお前の妹が魔法を使えるようになっているのかはわかるかもしれないな」
「そうです。もし魔法を使えるようになったというのがウミカの勘違いなら話は全然違ってきますよね」
「もちろんそうだ。確かに子供の勘違いということもあり得るか。一回確認しに行ってもいいかもしれないな」
「はい絶対に大丈夫です!サブレさんが心配しているようなことにはなりませんから」




