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39話

 


「え?どうしたんですか。串肉は嫌いだって言ってたじゃないですか」


「その変わった冒険者の採ってきた肉がどんなものか気になってきた」


「あいよ!これはいま焼きたてだよ」


 受け取ったサブレが上品に口に入れるのをモルンはじっと見る。視線の端には屋台の店主が同じようにじっと見ているのが見えて、やっぱりおじさんも気になるんだな、と思った。


 きっとサブレは正直に思ったままのことを言うはずだ。サブレは明らかに生まれた時から恵まれた環境で質の高い食事だけを食べてきた人間だ。その人間が自分たちがおいしいと感じるものに対してどういう感想を持つのかが気になった。


「悪くない」


「本当ですか?」


 ほっとした気持ちとうれしい気持ちがモルンの心に訪れた。


「そうだろそうだろ。いやなんか嬉しいな」


 おじさんは自分以上にうれしそうだった。そうだよね、おいしく焼けるように頑張っているって言ってたから、努力が認められたっていうことだもんな、とモルンは思う。


「臭みはないし焼きすぎて硬くなったりもしていない。うん、いけるなこれは。おっさん、この肉を採ってきたその冒険者の名前を教えてくれ」


「名前?名前なんて聞いてどうするんだい?」


「どんな奴なのか興味があるな。それに俺の記憶ではホーンラビットの肉というのは簡単に手に入るが、肉の質としてはそこまで高くなかったはず。そうだよなおっちゃん?」


「その通りだよ、いわゆる庶民が食うもので高級な料理店なんかで扱うような種類の肉じゃない」


「そうだよな、ということは質の高い肉をその冒険者に血抜きさせたらよほどうまい肉が食えるんじゃないかと思ってな。それとも高い肉になるような魔物はちゃんと専門のやつが血抜きしているのか?」


「アタシにはわからんな。なにせいままで扱ってきた肉はホーンラビットの肉かそれ以下の肉しか扱ったことがないから、調べようと思ったことすらない。けどいつかちゃんとした店舗を持っていい肉を扱ってみたいという夢はあるから興味はある話だな」


「とりあえず会うだけあってみたい」


「ちょっと待ってくれよ、それはできねぇんだ」


「なぜですか?」


「さっき言ったけど俺は肉を仕入れるのに冒険者ギルドを使ってるんだが、そこでは誰がとってきた肉が欲しいだとかそういうのは公表しない決まりになってるんだよ。それなのに俺は知り合いを使って、特定のやつが採ってきた肉を仕入れるっていう、簡単に言えばズルをしてるわけだな。それがバレたら俺の知り合いはクビとはいかなくても罰金かなんか食らわせられちまうかもしんないだろ?だからあんまりこの話は広めたくないんだ」


 おっさんは急に焦り始めた。


「それならなぜペラペラと俺たちに喋ったんだ?バレたら困るなら最初から言わなければいいだろ」


「いや、そう言われちまったらそうなんだけどよ。なんか言っちまったなぁ、うーん………自分でもなんでだかわかんねぇなあ。いきなり大銀貨を見たからおかしくなっちまったのかなぁ、うーん………」


 おっさんは困っているが俺としてはその男に興味があるし、もしかしたら今まで食べたことがないほど美味い肉が食えるかもしれないんだ、ここはごり押ししてしまおう。


「それならこれでもっとおかしくなれ」


 そう言って俺はおっちゃんの目の前に金貨を差し出した。


「きっ!金貨!金貨だ金貨!!」


「おっちゃんの知り合いにも一枚やるよ。これでもし罰金刑を喰らってもプラスになるんじゃないか?」



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