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38話 -屋台のおっちゃんの秘密-

 



「お客様方も1本どうですか、うちの串肉は絶品ですよ」


「僕頂きます。すごく美味しそうですね」


「俺はいらない。串肉は苦手なんだ」


「あーやっぱりそうだよねぇ。貴族様みたいな身分の高い方たちの口には合わないっていうのはあたしたちの業界ではよく聞くからねぇ。はいどうぞ」


「ありがとうございます。あっ、美味しい」


「いいねえ。やっぱり「ワウ」とか「ガウ」じゃなくて人の言葉で言われると嬉しいや」


「本当に美味しいです。前にほかの屋台で食べたのよりもお肉の匂いが少ないような気がします」


「おおっ!よく気が付いてくれたね。実はちょっとした秘密があるんだ」


「秘密ですか?」


「同業者の奴らには絶対に言わないでくれよ。これはホーンラビットっていう魔物の肉を使ってるんだが、取って来る冒険者によって同じホーンラビットでも肉の味が違うってことに気が付いたんだ」


「同じ魔物なのにですか?」


「そうなんだよ!俺らは冒険者ギルドの食肉処理係のところから肉を買うんだが、そこに知り合いがいるんで一緒に酒を飲みに行ってそいつが気持ちよくなってきたときに聞いたんだ、なんか肉の味が違わねぇかってな。そしたらなんと魔物の倒し方によって肉の質が変わるっていうんだ」


「えぇ!?そうなんですか」


「そうなんだよ。奴らは毎日肉を処理してるもんだから見ただけですぐに肉の良しあしが分かっちまうんだ。そのなかでも特にいい質の肉を毎回持ってくる奴がいて、それが誰なのかが気になった仕方なくなって調べたらしいんだ」


「その人がどういう魔物の倒し方をしているかを知りたくなったっていうことですか?」


「いやそれがそうじゃないんだよ。その冒険者の持ってくる肉はほかに比べてあまりにもいいというんだ。そこで俺の知り合いが思ったのは、この冒険者は血抜き処理をかなり丁寧にやってるに違いないと考えたらしいんだ」


「血抜きってなんですか?」


「血抜きっていうのは生き物の血と内臓を取って肉に臭みが出ないようにすることを言うんだ」


「なるほど、その冒険者の人はそれを丁寧にやっているということなんですね」


「そうなんだが俺の知り合いの食肉処理係のやつはそれが不思議でしょうがなかったそうなんだ」


「何が不思議なんですか?」


「血抜きはやってもやらなくても買取金額が変わらないからだ。ギルドが冒険者から魔物の肉を買い取る場合には鮮度が悪くない限りは、肉の味がいいものだろうと普通のものだろうと同じだっていうんだ」


「なるほど。同じ金額だったら手間のかかる血抜きっていう作業に時間を賭けたりはしないということですね」


「普通はそうなんだ。けどその冒険者だけはしっかりと丁寧に手間をかけた肉を持ってくるんだそうだ。それで気になってそいつに聞いたっていうんだ、なんで買取金額が同じなのにわざわざ手間をかけるんだってな」


「はい、気になります」


「そしたら生き物への敬意だとかそんなことを言い始めたんだそうだ」


「生き物への敬意、なんだかすごい人ですね」


「しかし冒険者としての腕はそこそこらしくていつもホーンラビットみたいなあんまり強くない魔物ばかり狩ってくるらしい。俺の屋台に使っている肉は、知り合いに頼んで特別にそいつの持ってきた肉を使っているんだ。だから味には自信あるぜ、なんせ元がいいからうまく扱えば普通の屋台で売ってる串肉より全然うまい串肉になるってわけだ。その時から常連客がかなり増えて嬉しい限りよ」


「なるほど、だからおいしいんですね」


「おうよ!いっぱい食ってくれよな」


「おっちゃん、俺にも一本くれ」


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