37話 -串肉という食べ物-
「よかったねワンちゃん、ご飯一杯食べさせてもらえるってよ」
「バウ!ワウ!」
「と言っても俺は犬を飼ったことがないから何を食うのかがわからんな」
「実は僕もそうなんです」
「お前もか」
「すいません。ただ串肉を売っている屋台のおじさんが犬を追っ払っているのを見たことはありますので、やっぱりお肉が好きなんじゃないですかね」
「串肉か、俺の大嫌いな食い物だ」
「え!そうなんですか?」
「固いし臭みもすごいだろ。一回だけ買ってみたことがあるが飲み込むこともできなかったぞ」
「そうなんですね、僕は大好きなんですけど」
やっぱりお金持ちは違うな、とモルンは思う。串肉は誰もが好きな食べ物だと思っていた。お金がないときはあの匂いを嗅ぐと余計にお腹がすいて耐えられなくなるので少し遠回りしたくらいで、モルンにとっては憧れの食べ物だ。
「とはいっても屋台は全く見当たらないな」
「バウ!」
「案内してくれるの?」
「バウ!」
「俺にはただやみくもに吼えているだけに見えるんだが」
「そんなことないと思いますよ、このワンちゃんは僕たちの言葉がわかるくらい賢いと思います。それにきっと鼻も利くはずですからちゃんと屋台のあるところまで案内してくれるはずです」
「バウバウ!」
「それならいいじゃないか。もし本当にわかってるなら案内してもらおうか、食べるのはその野良犬たちなんだから自分たちに選ばせよう」
「わかりました。ほら、君たちも分かったでしょGo!」
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「まさか本当につくとは」
「ほら!言った通りじゃないですか。このワンちゃんたちはすごく賢いんですよ」
一台の屋台の前でモルンは嬉しそうに笑った。
「よ!そこにいるイケメン二人組の兄ちゃんたち。よかったら串肉でもどうかね?さっきまで行列だったんだけど運のいいことにちょうど途切れたところなんだ。1本でも100本でも好きなだけ食べてってよ」
完璧に髪の毛の消失したタコみたいなおっさんが愛想よく話しかけてきた。
「このお店でいいんだよね?」
「わう!」
「よだれがもう滝みたいになってるな。わかったわかったこっちになくていいから、おっさんとりあえず100本くれ」
「えええぇ本当に100本かい!?というかまさかあたしの串肉をその犬に食わせるつもりじゃないでしょうね」
「つもりだが」
「いやちょっと待ってくださいよ。今は店を持ててないただの屋台の店主ですが少しでも安くてうまい串肉をお客さんに食べてもらおうと思って何年も改良を重ねてきたんですよ。それを犬に食わせるだなんてねぇ、到底我慢できませんよ。あたしにだってプライドってもんがーーー」
「ほれ」
親指で弾いた大銀貨が高く舞い上がったのちにオッサンの目の前に落ちた。
「もう一枚」
さっきの大銀貨のちょうど隣に髭のおじさんが刻印された大銀貨がもう一枚着地した。
「ほらもう一枚だ」
大銀貨とは1万ゴールド。1本100ゴールドの串肉を100本も売らなければ手にすることのできない金額。
屋台を始めてからの売り上げの最高額とほぼ同じ金額が降って来るのを口と目を大きく開けたまま見ていたオッサンだったが、5枚目の大銀貨が目の前に落ちた瞬間に血走った眼の笑顔に変わった。
「ありざっす!お犬様のお気に召すようにしっかりと焼かせて頂きやす」
「うむ、しっかりやれよ」
「はい!お任せください。こら煙め、大切なお客様のほうに行くんじゃないよこの野郎。お客様が煙臭くなったらどうするんだ。こんな悪い煙は俺が全部吸ってやる」
煙を吸い込んだオッサンが盛大にむせている。
「どうだモルン、これが金の力だ」
「はい………」
自分よりもはるかに年上の大人が笑顔のままむせているのを見て、モルンは少し切ない気持ちになった。




