36話 -妹という危険な生き物-
「危険?ちょっと待て「危険」と俺はいま言ったか?」
「?」
「ありえないだろうもしかしてお前は自分が負けることを考えているのか?いや、もっとはっきり言えば殺されるかもしれないと思っているのか?いやそれはいくらなんでもおかしいだろ。あいてはただの子供だぞ、しかもいまだ入院中。そんな奴に何をビビているんだ?いやしかし本にはしっかり書いていたぞ、生まれた時から魔臓を持っていたやつよりも後天的に得たやつのほうが強いと。いやしかしそれにしたってビビり過ぎだろう」
「さ、サブレさん?」
肩を軽くたたいてみる。
「どわ!?しまった、また自分の世界に入ってしまったか」
「はい」
モルンがサブレと知り合ってからまだ日は浅いけども何かあるとサブレはこうして周りには一切お構いなしで自分の世界に入ってひとりごとを喋ってしまう癖があることを知っていたので、最初に見た時よりは驚かないがそれでも少しは驚いてしまう。ただモルンとしてはサブレが何を考えているのかがわかりやすいので便利だったりもする。
「俺とお前たち兄妹が初めて会った時のことを覚えているか?あの時お前の妹は、はっきりと俺のことを睨んでいた。思えばあの時から違和感はあったのかもしれない。ただ子供が睨んでいるにしては迫るものを感じた」
「そうなんですか?僕は見てなかったので分からないんですけど」
「おかしいぞモルン。俺は無理矢理やらせたわけじゃないんだぞ、断ることだってできたはずだ、やるかやらないかはお前次第だった、違うか?」
「そうです、その通りです」
「それなのに恨むというのはおかしいだろ!俺はチャンスを与えただけで、お前たちが苦しい状況になっていたのは俺のせいなんかじゃない、違うか?」
「は、はい、その通りです」
急に詰め寄られたので驚きはしたが確かにサブレが言っていることはその通りだと思う。
「ですから恨んでなんていないと思いますよ」
「いーや!お前は全然わかっていない」
「そうでしょうか?確かにあの時は僕もサブレさんをひどい人だと思いましたけど今はこうして元気ですし、約束通りウミカも病院に入れていただいてお金も頂けました。だからあの時のことなんてーーー」
「お前も恨んでいたのかよ」
「それは………あのちょっとだけ」
「それはおかしいだろ。さっきも言ったがお前たちの両親が死んで金が無くなって飯も食えず、そして妹は病気になった。それは確かに不幸だ、けどその不幸を作り出したのは俺じゃないんだぞ。なんで俺が恨まれるんだよ」
「そう言われてみれば確かにそうなんですけど………なんか……あの…」
「なんか……あの…じゃない!」
「すいませんでした。けど僕が言いたいのはいまはもう大丈夫だ、ということなんです」
「お前は女という生き物を分かっていない」
「ふへ?」
「女という生き物は過去に起こったことをほじくり返してきてグチグチグチグチいつまでも攻め立てるという非常に陰湿な生き物なのだ。だからお前の妹も俺のことを恨み続けていて何かあれば攻撃してくるに違いない」
「それは絶対にないです!もしもウミカがそんなことをしようとしたら僕は絶対に止めます。いまちゃんとご飯が食べられているのもウミカが入院させてもらっているのもサブレさんのおかげです。だから僕はサブレさんの味方です」
「お前………」
「だから安心してくださいサブレさん!」
「お前って結構、いや、かなり重要なキャラだな」
「きゃら?」
「そうか、そうだよな。たしかに女とはいっても相手はまだ子供だ、大人みたいに考えが凝り固まっていないからこれからの教育で何とか変えることができるかもしれない。それにモルンは残されたたった一人の家族だ。影響力は相当あるに違いないぞ」
あ、また始まった。モルンは思う。
「モルン!」
「は、はい」
「さっきその野良犬がどうこう言っていたな?」
「あ、あの………大金貨を拾ってくれたお礼にご飯を食べさせてあげたいない、と。僕いまお金持ってきていないのでできれば貸していただきたいんですが」
「貸すなんて野暮なことを言うなよ、当然俺が金を出してやる。その犬たちの腹がはちきれるまでいくらでも食わせてやろう。その代わり、わかってるよな?」
「?」
「首をかしげてあざと可愛いアピールをするな、俺は真剣だぞ」
「よくわからないですけどすいませんでした。本当にサブレさんが何を求めているのか分からないんです」
サブレはため息をついた。
「すいません………」
「お前はかなり頭のいい子供だと思っていたが勘違いだったようだ、こんなことも分からないとは」
「ごめんなさい」
「つまりだ、俺という人間はかわいそうな犬にご飯を買ってあげるやさしい人間だということを、お前の妹にさりげなく喋って俺に対するイメージを回復させろということを言っているんだ」
「そういうことだったんですね、なるほど」
「全部言わせるなよこんなこと」
「わかりました。ちゃんとウミカには伝えます」
「さりげなく、だぞ。さりげなく」
「わかりました」
「言わされてる感をだすなよ、それだと逆効果だからな」
「任せてください。ウミカとはずっと一緒にいるのでウミカの気持ちはわかってるつもりです。ちゃんとサブレさんがいい人だっていうことを分かってもらえるように言いますから」
なぜこんなにもサブレさんはウミカのことを気にしているんだろう、モルンにはさっぱりわからなかったが、サブレが本気で心配しているのは伝わっていた。




