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34話 -犬-

 


「サブレさんより強力な魔法使いって、まさかそんなこと………」


「まさかもなにも文献がそういってるんだよ。なんだお前の妹は?」


「なんだってなんですか?」


「風、土、水、火のどれだ?どの魔法が得意なんだ。魔法使いっていうのは四大元素っていって普通どれかか、あるいは騎士みたいに身体強化が得意とかいう種類があるだろう!お前の妹はどれだ」


 サブレが近い。さっきまで親指で大金貨を弾いてたときみたいな余裕が嘘みたいな緊張感、まるで怒っているみたいだ。


「すいません、わからないんです。ただ、妹が言うには本当に魔法が使えるようになったのか試してみようと思って、何か起きてと思ったら時間が少しだけ遅くなったように感じたそうです」


「時間、が、遅く………」


「僕も全然よく分からないんですけど、指から水滴を滴らせている時に魔法を使う、と思うと水滴の落ちるスピードが少し遅くなった気がする、というんです。だから魔法って言ってもそんなに大したことはないと思うんです、サブレさんみたいに巨大な砂嵐を………サブレ、さん?」


 さっきまで凄い勢いて詰め寄ってきていた魔術師の少年が大きく目を開いて一点を見つめたまま固まっているのに気が付いた。


「大丈夫ですか?サブレさん?」


「時間、操作………」


 サブレの声が小さすぎて死にかけの魚が口をぱくぱくさせているようにしか見えなかった。


「おわった………」


 トンッ、という音がしてみるとサブレの右手からこぼれ落ちた大金貨が縦向きで地面に落ちてそのまま転がっていった。


「あぁ!?サブレさん!大金貨が!」


 大金貨………100万ゴールド、節約すればひとりの人間が一年くらいは暮らしていけるほどの価値を持つ一番価値の高い貨幣。


「ちょ、ちょっと」


 明らかに様子のおかしなサブレをどうするか一瞬迷いつつもモルンは転がっていく大金貨を追いかける。少し前までお金が無くて苦しい生活をしていたモルンにとっては夢のような価値を持つ貨幣だ。


「わ!ちょっと待って、そっちいかないで」


 大金貨はデコボコの道を倒れることなく進み汚水が流れる水路に向かって進んでいく。


「んが!」


 モルンは大金貨に向かって力を込めて飛び込んだ。いわゆるヘッドスライディングの状態。


「え!?」


 なんとか水路に落ちるギリギリで掴むことができた、そう思った瞬間に大金貨は目の前から消えた。


「グゥウウウ!」


 顔を上げると茶色い大きな犬が、これは自分のものだと言わんばかりに大金貨をくわえたまま鋭い目をこちらに向けたまま唸っていた。


「ワンちゃん、ペッてしな。そんなの食べたらお腹壊すよ?」


「グゥウーーー」


 犬の唸り声がちょっと弱くなった気がした。モルンが思うにはこの犬は転がってきた大金貨をとっさに咥えたはいいものの、これが食べられないものだというのは自分でもわかっているようだった。


「ほら君とっても賢そうな顔をしているから分かるでしょ、それを食べたっておいしくないよ」


「グウ?」


「うんそう、全然おいしくないよ。僕も気持ちは分かるよ、ちょっと前まで僕も君と同じくらい痩せていていつもお腹を空かせていたからね。わかった!それなら交換しようよ、君がそれを返してくれたら食べ物を買ってきてあげるよ。ね?それならいいでしょ」


 痩せ細った犬に話しかける。なんとなくだけどこの犬は自分の言葉をしっかりと聞いているような気がした。


「ウウウウウ」


「お腹いっぱい食べさせてあげるからさ、ね?」


「ヴォ!」


 犬が大金貨を吐き出した。


「よかったー無くなったら大変なことだったよ。まさかあんなにも綺麗に転がっていくなんて思いもしなかった。僕もお金を持つときには気負つけなくちゃいけないな。それにしても君、凄く賢いね。僕の言葉がわかっているみたいだ」


「ブウぅ…」


「わかってる、約束はちゃんと守るよ。それにしてもサブレさんはどうしちゃったんだろ。まさかウミカが魔法を使えるようになったことにあんなに驚くなんて。初めてだなあんなサブレさんを見たのは」


「ワウ!」


「おっといけない、ちょっと待たせ過ぎたみたいだね。それじゃあ一緒にサブレさんのところに行こうか」


 モルンは犬を伴って歩き始めた。



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