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30話 -これからの10年という時間-

 


「ありがとうございますメフィレールさん」


 弟のブルカがキラキラとした目をメフィレールに向ける。


「ちぇっ!まあ本気で思ってたわけじゃなくてただの冗談だったけどな」


 ちょっとだけ笑いながら言っているが、絶対に本気だったとグルトは思った。面倒だから全てを俺たちに押し付けるつもりだったに違いない。


「しょうがない、だったら炊き出しでもするか」


「炊き出し?なんだいそれは」


「俺も実際には見たことはないんだが、公園とかで恵まれない人たちに向けて豚汁とかをただで配布することだ」


「とんじる?聞いたことのない料理だ」


「豚汁を知らない?ああそうか、そうだった。まあ肉と野菜を一緒に煮込んだ料理だ。とりあえずは腹を満たしてやればいいんじゃないかと思うんだが、お前たちはどう思う?」


「どう思う?まあいいと思いますけど」


「メフィレールはどう思う?」


「悪くないと思うよ、リシュリーも納得するんじゃないかな」


「それなら決定だ!よしお前たち早速取り掛かれ」


「ええぇ!?」


「いやちょっと待ってくれ俺たちがやるのか?」


「他に誰がいるんだよ。1億位は出してやる、それくらい出せば10年くらいはできるんじゃないか?それだけやればリシュリーも納得するはずだ」


「10年!?10年も俺たちは公園で煮込み料理を作り続けなくちゃならないのか?俺たちは殺し屋だったんだのに人生急展開にもほどがあるだろ。ちょっと本当に勘弁してくれないか」


「そんなこと言ったってお前たちはメフィレールに生涯の忠誠を誓ったんだろ?そうなったら殺し屋なんか続けていられないだろ。メフィレールの命令に全て従いつつ殺し屋なんかできるのか?」


「それは………難しいな」


 殺し屋にも準備は必要だ。


 ターゲットがどんな人間でどんな生活をしてどの道をよく使うかなど調べなければならないし、そもそもきた仕事を引き受けるかどうかにも調査が必要で時間がかかる。それに仕事は弟と一緒にやってきていたのでいざ殺し屋の仕事をするとなるとふたりともメフィレールのそばを離れることになる。


「だったら殺し屋は廃業するしかないだろ、メフィレールの機嫌を損ねたらお前たちは死ぬんだぞ」


「なるほどー、確かにそうですね」


 弟よ、なるほどーじゃないぞ。ここで「はい」何て言ったら俺たちのこれからの10年間が決まってしまうんだぞ。


「俺も弟も料理なんかほとんどやったことはないんですよ」


「何を弱気なことを!初めてなんか誰にだってある。あの周富徳ですら初めてがあったんだからお前たちだってやれるさ」


「しゅーとみとく?」


「まあとにかく気にするなってことだ。要は鍋に水と具材と塩を入れて煮込めばいいんだよ、それくらいだったらできるだろ。ただで配るんだから文句を言われる筋合いはない」


「いや、まあ、それだったら………けど実際………」


「メフィレールはどう思う?」


「いいんじゃないの?なんだか面白そうだね」


 メフィレールが笑った。


「面白いね、殺し屋がいきなり煮込み料理を作る仕事に転職してただで料理を配ってる映像を見てみたくなってきた」


「ほら決まりだ!お前たちのご主人様もこう言っているんだからもう決まりだ、そうだろ?」


「はい!」


「は、はい………わかりました」


 俺たちの10年がこれで決まってしまった。なにが嬉しいのか、弟の元気のいい声を聞きながらグルトはいつのまにかぐったりとしていた。



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