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2話 -問い詰めても無理そうです-

 


 精一杯の威圧を込めても第4王子サンジェルトには全く通じていないようで、楽しんでいるかのような素敵な笑顔で言い訳を始めた。


「私はちゃんと約束通りに指名しようとしたんだよ?本当だよ、けどマリーがさどうしても自分の特級宮廷魔術師としてサブレを受け入れたいっていうもんだからさー可愛い妹の頼みじゃん、断れなくてさー」


 断れなくてさーじゃねえよ、なにへらへら笑ってんだよ。


「そんな話わたしは聞いておりません」


「そんな時間なかったんだよ。決まったのは結構ギリギリだったからね。それにサブレにしてもマリーゴールドは知らない仲じゃないから、別にいいかと思ったんだよね」


「しかし王女様を護衛する特級宮廷魔術師は女性が任命されるもののはずです。ご存じかとは思いますが私は思いっきり男です」


 ハーレムを夢見るくらいに男だぞ。


「それはそう、確かにそうなんだよね。そこがさー時間がかかっちゃった要因なんだよね」


 サンジェルトが困った顔をしている、押すならここしかない。


「今からでも遅くはありません。特級宮廷魔術師を護衛にしたいのであればふさわしい女性魔術師はいくらでもいるはずです。女性の特級騎士は数が少ないので選ぶのが大変だと聞いたことがありますが、魔術師はそうではない。きっとマリーゴールド様を納得させれるだけの人材がいるはずです」


「確かにサブレの言う通り女性の王族の護衛に特級宮廷魔術師だろうが特級騎士だろうが女性がつくよね。けど別にそういう規則があるわけじゃないんだなこれが」


「そ、そうなのですか?」


 知らない情報だ。男の護衛がついてもいいものなのか?特級宮廷魔術師についてはいろいろとした調べはしてきたが、そこの規則については勉強していなかった。


「そうだよ。ちゃんと調べたからね、間違いないよ。さっきサブレが言ったとおり特級騎士の女性となると数が少ないからね。もしかしたらそれで男の特級騎士が女性の王族の護衛に任命されることが必要だったんじゃないの?知らないけどさ」


 しかし明記されていないとはいえ今までそうだったのには理由があるはずだ。そうだ!王女が誰かと結婚するとなった場合、王女が年齢の近い男の護衛と親し気に喋っているのを見たら相手方がどう思うか、そんなことすぐにわかるじゃないか。


 なにもなくとも気分は良くないだろうし、変な噂を容易に立てられてしまう。それにもしも何かあった場合が大問題で、王族も王族に手を出した護衛もどんな目に合うのか想像がつかない。発覚した時点で処刑?幽閉?そんな悲劇は可能性の段階から消されるべきだ。


「いくら規則にそう書かれていなくても本来は女性の方が良いはずです」


「まあそうかもしれないけど決定権はこっちにあるし」


 ぐぉおおお!それを言われると何も言い返せない。規則があろうが倫理上問題があろうが相手は王族。この国で一番偉い、それは子供だって知っていること。一番偉い人たちがそうするって言ってるんだからどうしようもない。


「それに私だろうがマリーだろうが特級宮廷魔術師としての待遇的には変わりがないじゃないか。サブレは前に言っていたじゃないか、時間と金と権力?それがちゃんと手に入るから悪い話じゃないと思うよ」


「んなわけあるか!」


 思わず大声を張り上げていた。


 威圧。


 いつの間にかサンジェルトの特級騎士たちが俺との間に立って今にも剣を抜こうと身構えていた。


「申し訳ありません」


 汗が噴き出す。


 サンジェルトが手で制してくれたから奴らは止まったが、そうでなければこの国の精鋭である特級騎士たちにあっという間に拘束されていただろう。あるいはその後ろにいる特級宮廷魔術師たちに魔法をぶっ放されていたか。


「いいよいいよ全然気にしてない。むしろサブレの感情が見れて嬉しいくらいだよ。私はサブレのそういうところが好きなんだよね」


 サンジェルトの目が見開かれている。


 サンジェルトの特級宮廷魔術師になろう、俺はサンジェルトがどういう人間であるかはしっかりと自分なりに分析したつもりだ。


 王族とは思えないくらいに気さくで良いやつ。ほとんどの人間がサンジェルトのことをそういうだろうが俺はこいつの中にはしっかりと狂気の部分があると思っている。


 あの目には今確かに狂気があらわれている。


「ふっ」


 サンジェルトは笑った。


「サブレの気持ちは分かるよ。ちゃんと約束していたからね、私の特級宮廷魔術師になってもらうって。それがその通りにならなかったんだから怒っても当然だよ。だけどこの件に関してはちゃんと王の承諾を得て決定したことなんだよね」


「な!」


 王の承諾。


 女性の王族に男の特級宮廷魔術師をつけるという聞いたことが無い人事。それが平然とまかり通ったのは、この国で最高の権力者である王の決定だったということか。


「そんなに驚くようなことじゃないよ」


 驚くに決まっている。


「マリーはお願いが上手なんだよ。最初は王も渋ってたらしいんだけど何回も頼まれているうちに承諾してしまったらしい。やっぱり末っ子だから可愛いんじゃない?」


 マリーとはマリーゴールドの愛称。彼女がそういうタイプだとは知らなかった。王は多忙なので王女とはいえ、あまり会話する時間もないのかと思っていた。


「というわけでこの決定を撤回せるのは相当難しいと思うよ」


「ぐむむ」


 難しい?無理の間違いだろ。


「マリーの頼みを断れなかったのは私も同じで責任はあるから、もしサブレが望むなら王に会う時間を取るように頼んでみるよ。どう?直接サブレが撤回してもらえるように頼んでみたら」


 王に?直接?


「いえ、それは………」


「そうなの?王に直接面会できるなんて名誉なことだよ」


「いえ」


「そうなんだ、残念だな」


 何笑ってやがるこの野郎。


 王に面会するのが名誉?そりゃあ表彰されるかなんかで呼ばれるならそうかもしれないが、決定の撤回を求めに行くってことは王の決定に文句をつけに行くってことだ。


 いくら特級宮廷魔術師が並の貴族より権力を持ってるとはいっても所詮は雇われの身。国のトップとは比較にすらならない。


「サブレがそうしたいっていうなら私は本当にそのための努力をするつもりだったよ」


 なにをニヤニヤしてやがるんだよこの野郎。


「いえ結構です」


「じゃあ決まりだね。いやー結構面白かったね。それじゃあこれからはマリーの特級宮廷魔術師として頑張ってよ!離れても僕たちは友達だから何かあったら遠慮なく頼ってきてよ!」


 すごい笑顔で肩を叩かれた。


 こいつ………楽しんでるよね?


 だからそんなに笑顔なんだよな?俺が人生設計が全部狂ったのを見て楽しんでるよね?その笑顔って俺を笑ってる笑顔だよね?


 爆殺してぇ。


 俺は夢のために子供のころからずっと魔法を鍛え上げてきた。その鍛え上げたすべての力を持ってこいつを爆殺してやりてぇ。


 と思っていたら、護衛のやつらがものすごい眼で見てる。殺気がばれたか?いやしょうがないだろこの状況は殺気るだろう、普通は。


 少しだけでも痛い目に合わせてやりたい。


 けれどもこいつらからは指一本たりとも王子には触れさせないぞ、という強い意志を感じる。もし俺がこの護衛達と同じ立場だったとすればそうするだろうな。というか同じ立場だから気持ちは完全に分かる。何かあれば自分たちのせいにされるから。


 はぁ。


 なんでこう上手いこと行かないかね、俺の人生。




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