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28話 -金髪騎士による優しくない抱擁-

 


「サブレ………お前がそこまで恵まれぬ者たちのことを考えているとは思わなかった。私は考えが甘かった、お前が言うように恵まれない人たちに対してお前ほど真剣に向き合ってこなかった、逃げていたのかもしれない。もう私に何か言う資格なんかない、異世界の品はお前が好きにしていい」


 そう言ったリシュリーの声は今までにないほど沈んでいた。


「どこに行くつもりだ?手に入れた分け前をこれからどうするかの話をしたいからまだ帰らないでくれ」


 背中を向け歩き出したリシュリーに言う。少々言いすぎてしまったかもしれないという罪悪感を感じる。


 それにリシュリーがいなくなってしまっては話し合いができない。メフィレールが探し当てた床下の金については予想外だったので、どう分けるかが問題なのだ。マフィアに返すという選択肢はもちろん無い。これはいわゆる迷惑料みたいなものだ。


「私はいらないからふたりで好きなように分けてくれ」


「いらないって千ゴールドや2千ゴールドじゃないんだぞ」


 扉の前で相変わらず沈んでいるリシュリーに言う。大金貨が重くて運ぶのが嫌になるくらいの量がある。世の中の何でも買えるほどの金じゃないかと思ってしまうほどだ。


「サブレが言うように私は金に苦労したことがない金持ちだからな、それがなくたって生きていけるさ」


 扉に手をかけた。


「だったらリシュリー、こういうのはどうだ?」


 メフィレールが去っていきそうな背中に声をかける。


「さっき君が聞いた通りここにいるサブレは恵まれない人々のことを深く、深く考えている優しい男だ」


 ?


 別にそんなことはないんだが。何を考えているんだメフィレールは。


「君が受け取るはずのお金を恵まれない人々のためにサブレに使ってもらうんだ」


「恵まれない人のために?」


「そう。たしかにサブレが言うようにここ王都であっても日々の暮らしに困っている人間はたくさんいる。その人たちのために使うんだ、これだけの金額があればそれは十分可能なはずだ。しかも人格者であり恵まれない人の生活に詳しいサブレならきっと有意義な使い方をしてくれるさ」


「たしかにそれは………いいことだな」


「もしリシュリーが恵まれない人たちに対しての考えが足りていなかったと反省しているなら、今日まさに今こそが再出発の日なんだよ。そうすれば今日の私たちの一日は無駄じゃなかったってことさ」


「うん………そうだ」


「悪人を成敗して弱きものを助ける、これは私の知る騎士の姿だ。リシュリー、君はそう思わないか?」


「そうだ!確かにその通りだ!うんそうだ!それは素晴らしいアイディアだ!」


 リシュリーは元気を取り戻した、いや、取り戻し過ぎている。目が怖いぞ、なぜここまで焚き付ける必要があるんだ?そう思ってメフィレールを見るが微動だにしない笑みを浮かべているだけで反応がない。


「サブレ!私の取り分は恵まれない人たちのために使ってくれ!!」


 真っすぐな力強い目で、力強過ぎる目で見つめられた。


 いや、ちょっと面倒だ。面倒だけど一銭にもならなそうな仕事、全くいらない仕事だ。それに別に俺じゃなくていいはずだ、どっかの誰か慈善事業の好きな奴にでもやらせればいいだろう、俺がやる必要はないはずだ。


 別に俺は恵まれない人の生活に詳しいわけでも何でもない。ただ通りかかった時にチラッと見たことを想像を膨らませて言ってみただけのことだ。それに大変そうだな、とは思うが自分が何とかしてやりたいとかは思っていない。


 リシュリーがそういう使い方をしたいのであれば止めるつもりはないからどうぞご自由にと言いたい。


「サブレ!頼む!」


 言えない。もしいま俺がさっきはああいったけど、本当は恵まれない人のことなんて割とどうでもいいんだよ、なんていったらこの女は怒り狂う気がする。思い返してみればあの試合の時も、腹に一発良いのを入れたらこの女は怒り狂っていた。感情の制御が苦手なタイプに違いない。


 怖っ!


「あ、ああ、わかった」


 目力に負けて言ってしまった。嗚呼、言ってしまった。


「感謝する!」


 急なリシュリーの抱擁は男のように硬質で力強い抱擁だった。



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