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27話 -通すか通さないか-

 


「これは国の検査を通していない品でしょう」


「どういうことだ?異世界の物品を手に入れたら国の鑑定を通さなければいけない決まりのはずだ」


 鎧こそ来ていないがいかにも騎士という感じのリシュリーが声を上げた。グルトはその声にルール違反を責める気配を感じ取った。


「騎士は規則が大好きだから瞬きの数すら規則で決められている」というのは庶民がよく言う冗談だが、このリシュリーという騎士はまさに騎士というような騎士だと思った。


「そうはいっても手続きがやたらと面倒なうえに、国にとって価値があるものだと言われたら強制的に取り上げられるっていう、こっちにとって何の旨味もないシステムですからほとんどは内緒で取引されていますよ」


「取り上げるといってもきちんと対価は支払われると聞いたぞ」


「その対価が問題なんですよ。異世界の品を集めているコレクターはたくさんいて特に金持ちに多いです。普通に取引すれば国が払う対価の数十倍からものによったら数百倍になることもあるっていうですから、誰だってそうしますよ」


「規則は規則だ」


「まぁ騎士様にとってはそうでしょうね。けど金がない一般庶民にとって規則よりも明日のパンを買う金のほうが大事だ。馬鹿正直に国にくれてやるつもりでもっていくなんて真似はしませんね。すぐに金に換えるのがいいにきまってますよ」


 リシュリーの威圧感が膨れ上がった。その瞬間、グルトは自分が失言したことを悟った。


「まあまあリシュリー、別にこれはグルトが隠し持っていたわけじゃないんだから怒らなくてもいいじゃないか」


「まさかとは思うがメフィレール。貴様もこのまま持ち逃げする方がいいと考えているんじゃあるまいな」


「思っているよ」


「おい!」


「まず一度すべてサブレのところに持って行こうじゃないか、どうするかはそのあとで決めればいい」


「騎士として規則の逸脱を看過するわけにはいかない!」


「リシュリー君は今騎士としてこの場に立っているわけじゃないだろう。もとはといえばサブレに謝罪するつもりで来たはずだ、規則を守らせるために来たわけじゃないだろう?」


「ぐむむ……いいだろう、一度持っていくだけだ。話をすればサブレはきっと規則を守るというに決まっている」


「そうかなとてもそうは思えないけど」


「この国の規則を守ることはこの国で生きるものならば当然のことだ、特級宮廷魔術師であるならそれが分からないはずはない!」


 不敵な笑みを浮かべるメフィレールに対してリシュリーが噛みつくように言った。



「国になんか一個たりともくれてやるものか!」


 王立病院のベッドでサブレは言い放った。


「サブレ貴様自分が何を言っているのかわかっているのか!王族に使える身でありながら王の定めた規則をないがしろにするとは何事だ!」


「それとこれとは全く別問題だ」


「我々の給料はすべて国民からの税金だ。だからこそ我々は誰よりも自分を律し規則を遵守しなければならない!」


「国がやっていることは盗人と同じだ、そんなふざけた規則には従えるはずがないだろ」


「何という言い草だ、今すぐに取り消せ」


緊張感が跳ね上がった。


 特級騎士と特級宮廷魔術師の本気の睨み合いにグルトは自分の体が震えているのを感じた。喧嘩なんてものは今まで自分のものにしろ他人のものにしろ数えきれないくらい見てきたが桁違いの威圧感を感じる。


「市場価値をはるかに下回る金で買い叩くなんて行為は買い叩かれる側にしたらたまったもんじゃないだろ」


「それは異世界の品が国の利益をもたらすからだ。これはすべての国民のためにもなることだ」


「すべての国民なんてどうでもいいんだよ、俺が得をすることだけが重要だ」


「それは単なる我儘にすぎない。国あってこその国民なのだ」


「馬鹿げた言い分だ。人あってこその国、国なんか変わろうが消滅しようがそんなものはどうでもいいことだ」


「貴様本気で言っているのか!」


「本気だとも!国が何をしてくれるというんだ。お前が言っているのはしょせん金に不自由したことのない恵まれた人間の言い分だ」


「なんだと!」


「お前の実家はかなりの門下生を抱える剣術道場で家もデカいな?衣食住に今まで一度でも困ったことがあるか?」


「それが何の関係がある」


「大いにあるね。お前は何もわかっていないなリシュリー、それともわからないふりをしているのか?この街の表通りを外れた場所がどんな惨状であるのかお前は一度も見たことがないのか?」


「う、それは………」


「雨漏りのする家で、寒さを凌ぐために寄り添っている痩せ細った子供を見たことがあるか?ほんのちょっと足を延ばせば簡単に見れる光景だぞ。その子供たちにお前は国のためだと言って金を取り上げるのか?金さえあれば飯が食える。金さえあれば病院に行ける。それがわからないのか?」


「………」


「異世界の品を手に入れる最もポピュラーな方法はダンジョンに潜ることだが、そのダンジョンでどれだけの人間が死んでいるのか知らないのか?それだけのリスクを背負って手に入れた物をお前は買い叩くつもりなのか?栄養失調で死んだ子供の前でお前は国のためになって良かったな、とでもいうつもりなのか?」


「………」


「お前が大好きな規則なんていうものはいま苦しんでいる人間には何の役にも立たないものだ。金だ、金が全てだ、金さえあれば命を救うことができるんだよ」



 うつむいて表情の見えなくなったリシュリーを見ているとグルトは自分の心が痛むのを感じた。


 言い分としてはサブレが言っていることが正しいと思いつつも悲しかった。




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